野毛は焼鳥・もつ焼きの店が非常に多く、これは戦中・戦後の混乱期に川魚の店や割烹が、より入手しやすい豚モツや鶏を焼いたのが理由の一つだと、老舗の大将は話していました。
この街で長年飲み歩いている人にはおなじみの店「鳥芳」。創業は1959年(昭和34年)。家族経営の酒場で先代のあとを継いで、いまは女将と若大将が店に立っています。
看板料理は焼鳥ですが、ここの特長は横浜の市場から仕入れる鮮魚をつかった海鮮串です。常時5~6種類の魚介類があり、それをやきとりと一緒にさっと焼き上げてくれます。また、ホワイトボードに加わる刺身やトマトピューレで煮込んだビーフシチュー(550円)も常連さんに人気の一品です。
ちょっとした屋台飲み屋を思わせる、L字カウンターだけの10数席の店。路地の角にありふたつの辺から入れるのも屋台感を増しています。隣の方との距離が近く、焼き手の若と料理や飲みものを担当する女将さんとの距離も近い。独特な一体感が鳥芳の時間をより魅力的なものにしてくれます。
なにはともあれ、ビール(650円以下税込)から。鳥芳はいろんなビールを仕入れています。何が在庫であるかはその日次第。場所柄キリンが多いのですが、この日はサッポロラガー(赤星)がありました。
では乾杯!
ビールは瓶のみ。チューハイ(430円)、レモンサワー(450円)、キンミヤ梅割り(450円)など。ホッピー(セット530円)もあります。定番酒は白鹿(430円)です。
ビールといっしょに供されたお通しの小鉢。マグロ、根菜、こんにゃくなどを甘く煮たもの。こうした、ちょっとした煮物が美味しいのがいいお店だと思います。
ホワイトボードは今日の一品や刺身など。海鮮串は浅利、マグロ、カキ、タコ、つぶ(各250円)。定番の焼鳥はレバー、砂肝、皮、ねぎ間、ささみ、つくね、丸ハツ、鶏なんばん。巻き串でしそ巻き、トマト巻き、アスパラ巻き。
数量限定、あったらラッキーで、白レバー、ハツ元、えんがわ、牛なんばん。串は150円~。いろいろありますが、お店の方との会話で、おまかせで頼むのがオススメです。(おまかせ5本900円)
なんばんは、特製の甘くコクのあるタレに漬けて焼いたもの。
さてさて、何から焼いてもらいましょうか。マグロは予め漬けにされており、浅利は軽く甘く煮てあるなどそれぞれに仕事が施されています。その丁寧な準備がこれまで多くの野毛のお酒好きを魅了してきました。
まずはマグロとタコ。わさびを軽くのせて爽やかに。マグロのコク、タコの旨味、その余韻にきゅっとビールをあわせれば、今日一日のいろんなことを流してくれます。
ブリとツブ。ツブ貝はだいたいいつもある人気の串。刺身でも食べられるものを炙るようにレアに仕上げています。隅の身はパリっと磯風味、中心はしっとりジューシー、そして楽しいコリコリとした食感。
ひたひたと肉汁蓄えたささみ(170円)とねぎ間(170円)。味付けは串ごとにきまっています。ひとつひとつが丁寧で焼き具合ももちろん部位によって異なります。
しっかり濃い目のレモンサワー。濃いのはレモンではなくて…。氷屋さんの氷なので溶けにくく、キリっとした美味しさです。
しそ巻(200円)とレバー(160円)。パリパリの肉にちょっと濃い目の塩と紫蘇の青い感じが心地よく、レバーは柔らかくしっとりとしています。
つくね(180円)と鶏なんばん(200円)。食べるペースでちょいちょいと追加していけるのも小箱の一体感があるからこそ。
世代が変わっても、店の雰囲気はほとんど変わっていません。変わらず美味しい焼鳥と、野毛全体から醸し出す不思議な夜の街感があいまって、飲めば飲むほどワクワクしてきます。
空席があればふらっと吸い込まてしまう良きお店です。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材時期/2020年2月以前)
鳥芳
045-231-5642
神奈川県横浜市中区野毛町1-24
16:00~24:00(月定休)
予算2,000円