本日は京都・三条京阪の知る人ぞ知る銘店「おたふく」をご紹介します。三条大橋を東に渡ったエリアは現在再開発の真っ最中です。さらに東へ進み、花見小路をちょっと下がったところにそのお店があります。
お昼からやっているお好み焼きや焼きそばなどを中心とした鉄板焼きの酒場です。年季のはいった市営住宅の前にでっぱった昔ながらの団地商店街の一軒。周囲に飲み屋はあまりないので静かですが、こちらのお店は地元の人に大変愛されている銘店なのです。
早い時間はお酒を飲まずにお昼ごはんで利用されている方もいますし、私みたいに遠方から飲みに来る人もいる。基本は界隈のお父さんたちの憩いの場であることは言うまでもありません。
味わい深い店構え、店内からぷーんと香ばしい匂いが漂ってきます。
厨房と鉄板を囲むようにコの字カウンターが配置され、現代の飲食店と比較すればちょっと低めに感じる椅子に腰掛けます。早い時間ならば、窓から差し込む午後の日差しが店内を優しく包み、まるで夢の中の酒場にいるような気分。
品書きは鉄板上に書かれたボードと短冊から。カキフライやハムサラダ、ジャガバターにコロッケなど酒場のつまみが充実しつつも、やはりメインは鉄板料理です。お好み焼き、焼きそば、焼飯の三種類に、トッピングや組み合わせで食べたいものを決めていきます。
まずはビールを。日々の緊張から開放され、心の底からとろけていく。店の雰囲気に瓶ビールが大変良く似合います。サッポロ黒ラベルで乾杯!
おつまみは、「さいぼし」です。三条の地にある歴史ある大衆酒場で、いまも「さいぼし」が看板商品として健在なのは、実に素晴らしいことではないでしょうか。さいぼしは、旨味が強くエネルギー溢れる一品。一切れで何杯でも飲めてしまう魔法のおつまみです。※残りすくなかったので、写真は半分の量
続いて、ホソ焼き。これもまたこの地らしい食べ物の一つです。ホルモンのぷりぷりとした部位に玉ねぎと、甘辛い味付けでまとめた鉄板料理で、食欲を掻き立てるにく芳しい香りが店内に充満します。
東京の闇市生まれのもつ焼きとも違う、関西のホルモン食の個性豊かな顔ぶれも飲兵衛は大変嬉しい。
京都のお好み焼きが東京にも進出してきていますが、広島や大阪と比べるとまだまだ影が薄い。「京都風の」と前置きをつけると、薄味で出汁を味わう上品な…というイメージがどうしても先行してしまいがちですが、いやいや、京都の大衆食が薄味なはずがない。
ぴりっと辛いソースに、基本はすじ肉を具材にしてつくり、多くの店ではネギがたっぷりトッピングされます。こちら、「おたふく」は、まさに京都お好み焼きらしい「すじ」や「ほそ」を入れ、ベタ焼きで仕上げていきます。一玉700円から。
ホルモンからにじみ出る脂分とソースが混ざり、濃厚な旨味が待ったなしに刺激してくる、そこにはビールもいいですが、ばくだんが恋しくなります。
京都の大衆カクテル「ばくだん」。東京下町のもつ焼きに焼酎ハイボールがあるように、京都のホルモンにも専属のパートナーがあるのです。
赤玉スイーツワインと焼酎(甲・乙麦かは店による)を混ぜたものにサイダーをいれてつくる鉄板屋の定番ドリンクです。
戦後の飲用アルコールが不足していた時代に、いかにして甲類を飲めるようにするかの工夫の成果、東京はジュース屋が考案した「謎のエキス(ホイスとか)」を入れ、京都では寿屋の赤玉ポートワイン(1973年、事情により赤玉スイーツワインに名称変更)を入れたのです。
甘く不思議な味わいながら癖になり、辛いソースと脂たっぷりのホソに実によく合う酎ハイです。
スジ油かすは、身と脂が混在した部位をずっと炒め続けてかりかりにしたもので、これまたビールやばくだんと好相性。がんがんと伝わってくるパワーある味に、体がなんだか火照ってくるように感じます。そこにまたビールがいい!
三条京阪駅から徒歩3分ほどの場所にあり、観光地からのアクセスも良好なこの界隈。江戸時代から続く、人々の土地と結びついた歴史を感じ、それを味わえる貴重なお店にいらしてみてはいかがでしょう。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
おたふく
075-541-2545
京都府京都市東山区花見小路三条下ル
お昼から通し営業(水木定休)
予算1,800円