本日は山城屋酒場をご紹介します。明治30年創業、もうすぐ120年を迎える江東区を代表する酒場の一つ。風格あふれる店構えで、この大のれんは飲兵衛なら一度はくぐりたいと思うもの。
周囲に飲食店はあまりなく、地下鉄の駅からも徒歩10分は歩かなくてはならず、ここは何かのついでに立ち寄るのではなく、「山城屋で飲む」ということそのものが目的になります。公共交通で最も楽に行く方法は、この店の前を通る清洲橋通りを走る都営バス[秋26]です。秋葉原と門前仲町の間を結んでいますので、早い時間に飲むのであれば、ぜひとも都バスの旅を楽しんでみてもらいたいです。北砂1丁目バス停の真ん前にあります。
さぁ、今日も飲むぞとやってきた山城屋。相変わらずしびれるかっこよさ。店内からは先輩たちの笑い声が聞こえ、扉の隙間から賑わう酒場にある独特な熱量が感じられます。
がらりと開けて「一人」と人差し指で女将さんにご挨拶。どうぞと通されたカウンターは常連さんが集う奥の席。お隣は山城屋歴何十年という主が店と同化しそうな構えで飲んでいます。久しぶりなのでちょっと緊張。
軽く会釈して、それでは瓶ビールでスタートです。こちらのお店は何十年もずっとずっとキリンビール。だからラガーがめちゃくちゃよく似合う。山城屋にキリンラガー、もうそれだけでも来たかいがあります。
乾杯!
厨房を覆い隠すほどの短冊がさがる品書きの中から選んだのはサービスのタコぶつ(400円)。刺盛り690円もよいけれど、あれはハレの日の食べ物。今日の私はなんということのない「山城屋へ行きたい」というだけの人なので、贅沢はお預け。
といってもここのお刺身はどれも本当に美味。今の時期、トリ貝は生でだしていたり、たこもおおぶりでもちもち、実にレベルの高いものが庶民価格で食べられます。これこそ、山城屋が130年続いてきたポイントではないでしょうか。
関東大震災も東京大空襲も乗り越えた家族経営ならではの阿吽の呼吸が心地いい。女将さんのテキパキとした接客は、実に気遣い上手です。
店内には店の歴史を象徴する山城屋の文字が入った通い徳利があります。ほかにも、長く愛され続けてきたことを感じる感謝状などが多数。キリンビールの懐かしいグッズも飾られています。
キリンのドラフトマスターズのプレートもあることですし、大びんから樽詰の一番搾りへ。昔ながらの大きめ生中サイズ500mlジョッキで450円、さすがわかっていらっしゃる!
常連さんと酒場トークをしながら、周囲の皆さまと乾杯。毎日のように通う常連さんと山城屋がいかに素晴らしいかについて酒場談義。俺はもうビールが飲めない体になったからホッピーだけど、あなたの飲み方は見ていると飲みたくなっちゃうよ、と70代の職人さん。
鹿児島から出稼ぎにきて、人生の半分以上を砂町で過ごしてきたというお父さんで、孫も大きくなったしあとは美味しくお酒を飲むのが生きがいだそう。あと10年は飲むぞ、と力強い言葉。手元にはホッピーの空瓶が4本も並んでいます。
人気メニューの鶏から。にんにくなどに漬けられたものを揚げていて、これがビールやチューハイとの相性抜群なのです。500円以下でだいたいのおつまみが選べるので、2,000円あればお大臣な満腹コースになるはず。
下町といえばチューハイで店の個性を出すところが多く、下町ハイボールなんていうものも有名になりましたが、こちらはレモンハイがそれにあたります。生しぼりのレモンを入れた酸っぱいチューハイで値段は350円。ただ、この日の店内をみていると緑茶割りのオーダーが実に多い。常連さんの勧めもあって私も緑茶割りに。
女将さんが手際よくキンミヤ焼酎に抹茶をいれてくるくると混ぜたあとに氷をトトトといれて完成。甘くてほのかに苦い、これは飲み過ぎてしまいます。でも美味しい。
いわしのみりん干しをつまみに、酒場にひたります。周囲の会話、他のお客さんが頼んだメニューが次々と目の前を通り過ぎて行き、それをぼーっと眺めている。これがいいんですよ。どこか別世界のような気がして、気づいたら魅力に取りつかれていました。
お店の方の雰囲気、常連さんの優しさ、風格いっぱいの佇まい。壁一面の短冊の料理はどれも魅力的。やっぱり山城屋酒場は最高です。
久しぶりに来ましたが、やっぱり来てよかった。目的地にして飲みに行くべき酒場です。お散歩がてら、飲みに行かれてみてはいかがでしょう。テーブル席や小上がりもありますが、おすすめはやっぱりカウンター。大正、昭和と脈々と飲兵衛が愛してきた世界へようこそ。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 山城屋酒場 |
住所 | 東京都江東区南砂1-6-8 |
営業時間 | 営業時間 16:00~21:00(料理L.O.19:30 お酒L.O.20:00) 定休日 月曜日、日曜日 |
開業時期 | 1897年深川で創業 現在の店舗は1953年開店 |