新橋駅前ビルの完成と同時、1966年(昭和41年)に創業した『パーラーキムラヤ』。半世紀以上、変わらぬ姿で営業を続けています。酒場が多いビルですが、今回はあえて喫茶店へ。名物のピザトーストを頬張り、黒ラベルを傾ける。歴史ある空間での「喫茶店飲み」をご紹介します。
1966年のビル開業時から時を刻む

JR新橋駅の汐留口を出ると、信楽焼の狸の銅像「狸広(たぬこう)」が出迎えてくれます。ここが新橋駅前ビル1号館の入り口。高度経済成長期の熱気をそのまま閉じ込めたようなこのビルは、1966年(昭和41年)に竣工しました。かつてこの地にあった飲み屋街を再開発して生まれたビルですが、その独特の空気感は現代のオフィスビルとは一線を画しています。

地下へと続く階段を降りると、配管がむき出しの天井や、密集する飲食店のネオンが迎えてくれます。迷路のような通路の奥に、ビル開業時からずっとこの場所で営業を続ける『パーラーキムラヤ』があります。

自動ドアを抜けると、外の喧騒が嘘のような静寂に包まれます。赤とクリーム色のツートンカラーの椅子は、座面が低く、深く腰掛けると自然とリラックスできる設計。壁面の幾何学模様のレリーフや、中央に置かれた水槽で泳ぐ熱帯魚。これらは創業当時から変わらないものだそう。半世紀以上の時間が、この空間に独特の深みを与えています。
かつては紫煙くゆらせるサラリーマンの憩いの場でしたが、現在は全席禁煙になりました。タバコの煙がなくなったことで、コーヒーの香りや、これから楽しむ料理の匂いがより鮮明に感じられるようになったのは嬉しい変化です。
焼きたてピザトーストで黒ラベル

席に着き、メニューを開くよりも先に瓶ビールを注文します。銘柄は「サッポロ黒ラベル」。「パーラー」と名の付く店で、小さなビアタン(コップ)にトクトクと手酌でビールを注ぐ。この一連の所作が、居酒屋とは違う「喫茶店飲み」の醍醐味でしょう。
ビールのつまみに選んだのは「ピザトースト」。提供されるまで15分ほどかかりますが、この待ち時間こそが贅沢なひととき。お通しの柿の種を齧りながら、冷えたビールで喉を潤し、文庫本を片手に焼き上がりを待ちます。

やがて運ばれてきたのは、4枚切りほどの分厚い食パンを使ったボリューム満点の一皿。こんがりと焼けたチーズの香ばしい匂いが食欲をそそります。

指で掴むとサクッとした音とともに湯気が立ち上がります。たっぷりのチーズの下には、ハム、玉ねぎ、マッシュルーム、そしてピーマン。特にピーマンのほろ苦さが、濃厚なピザソースとチーズのコクを引き締めています。ここにタバスコを多めに振りかけるのが私流。ピリッとした辛味がアクセントになり、ビールの進む「大人の味」へと変化します。

ちなみに、ナポリタンやチキンライスも評判。どちらも味が濃厚で、食事としてだけでなく、酒のつまみとしても優秀な存在。お腹に余裕があれば試してみてください。
再開発が迫る中、変わらぬ場所で
新橋駅前ビルを含めたこのエリアは、再開発の計画が進んでいます。1966年からずっと、多くの企業戦士たちの休息を受け止めてきたこの風景も、いずれ見納めになる日が来るでしょう。
効率やスピードが求められる現代において、変わらぬ内装の中で焼き上がりまで20分待つピザトーストと、ゆっくり味わう瓶ビール。そんな「時間の余白」を楽しめる場所は、都心では貴重な存在となりました。
店舗詳細

夕方5時以降は、レモンサワーやウイスキーも解禁されるので、しっかり居酒屋使いが楽しめます。

| 店名 | コーヒーショップ パーラーキムラヤ |
| 住所 | 東京都港区新橋2丁目20−15 新橋駅前ビル1号館 B1F |
| 営業時間 | 平日 8時00分~19時30分 土曜日 11時00分~13時30分 15時00分~17時30分 日曜日定休 |
| 創業 | 1966年 |
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