一之江『はむら』70年目を迎えた、白木の一枚板に刺身が似合う名酒場

一之江『はむら』70年目を迎えた、白木の一枚板に刺身が似合う名酒場

2022年5月24日

昭和27年創業、老舗酒場『大衆季節料理 はむら』をご紹介します。鉄道空白地帯にありながら、16時の口開けより地元の常連さんで賑わう地域密着の店。宴会もできる大箱の店ですが、一人飲みならば白木の一枚板をつかった立派なカウンターに通されます。旬の魚を仕入れた黒板メニューは要チェックです。

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バス停前で70年。駅前の酒場とは違った風情がある。

今井街道はいまも昔もバス通り

江戸川区は、東西方向へ走る鉄道は数多くありますが、南北はもっぱらバス頼りです。また、小松川、松江、そして江戸川区役所のある中央など、江戸川区には鉄道空白地帯が広がっており、このエリアの交通を無数の路線バスが網羅しています。

とくに小松川から一之江駅を結ぶ今井街道は、江戸川区を南北に結ぶ路線バスの幹線となっており、日中でも約5分おきにバスがやってきます。1968年(昭和43年)まではトロリーバスも走っていたようです。そのため、鉄道駅の代わりにバス停周辺に商店が立ち並ぶようになり、現在も今井街道のバス停周辺にはレトロな商店街がいくつも存在します。

今回ご紹介する『はむら』も、駅前酒場ならぬ、都営バス停留所の横にある『バス停前酒場』です。「松江」停留所下車徒歩0分。

亀戸駅、一之江駅、新小岩駅、平井駅、葛西駅から都営バスでアクセス可能な松江停留所。路線バスを使えばとても便利な場所にあります。バスの存在を知らなければ、「なぜこんな住宅街の真ん中に大きな酒場があるの?」と疑問を持ちそうです。

外観

創業はまだトロリーバスが店の前に停まっていた頃の1952年。今年で創業70年を迎えた歴史ある酒場です。

暖簾が掲げられるのは夕方4時。総じて、江戸川区の酒場は営業開始が早く、そしてお客さんのスタートも早いように思いますが、ここ『はむら』もご多分に漏れずその通り。口開け直後に伺いましたが、すでに先客のお父さんたちが宴会をはじめていました。

内観

暖簾をくぐると、一瞬で感じる「名酒場」の空気感。パリっとした調理服姿の板前さんが「いらっしゃい!」と迎えてくれました。目につくのは、分厚い一枚板を使用した立派なカウンターです。10メートル近いにも関わらず継ぎ足しなく、そして歪みもありません。

花板さんの目の前に通してくれました。これは一人飲みの特等席でしょう。白木の手触りが心地好い。カウンターの隣りにある生け簀では、鯵が元気に泳いでいます。

振り向くと、そこは畳敷きの小上がり。昔の酒場はどこにでもありましたが、いまは数を減らしてしまいました。しばらくすると家族連れがきて小上がりへ。お子さんも居心地が良さそうです。

厨房は広く、職人さんが何人も働いていたことがわかります。年季が入っているものの、磨かれており金属が鈍く光ります。

品書き

お酒

大樽(生ビール)はキリン一番搾り大:700円、中:550円、小:450円。瓶ビールはキリンラガー中瓶:550円。

サワー類は、酎ハイ:300円、レモンハイ:350円、トマトハイ:400円、ホッピーセット:500円など。

日本酒は定番酒に珍しい古澤酒造(山形県寒河江)の天風本醸造:1合250円、冷酒は朝日酒造(新潟県長岡)の久保田:600円。

日替わり料理

ホウボウ刺身:600円、銀鱈:500円、ホタルイカ:700円、鯨刺し:800円。ほかにも、生牡蠣、生ホタルイカ、鱈の白子など。

月替りの料理

例:若竹煮:400円、タン元角煮:400円、クリームコロッケ:400円。

定番料理

焼き鳥、刺身にとんかつまである、まさに王道の酒場メニューという顔ぶれです。こうした雰囲気の店としてはひとまわりリーズナブルに思えます。

お刺身は3点盛り:900円、まぐろさし:700円、甘海老:600円、活あじたたき:800円、いわしさし:500円など。

揚げものは、天ぷら盛合せ:800円、海老しんじょう:600円、活あじフライ:900円、カキフライ:600円、地どり唐揚げ:600円、串カツ:500円など。

焼き物は、焼きとり:400円、タン:400円、シロ:400円、つくね:400円、手羽先:400円、ほっけ焼:500円、ぶりかま焼:700円、焼ハマグリ:600円など。

一品料理は、にこみ:400円、牛すじ煮:500円、肉じゃが:500円、豚ロースステーキ:800円、豚足:400円など。

刺身も焼鳥も丁寧な仕事。70年続く理由がわかる

キリンラガービール中瓶(550円)

まずはビールから。長年キリンを扱ってきたことがわかる聖獣タンブラーがでてきました。トクトクと注いで、それでは乾杯!

ホウボウ刺身(600円)

常連さんたちは、皆さん黒板に書かれた今日の魚から注文するようです。やはり、板前さんのいる店はそうでなくちゃ。

今日のおすすめ、「ホウボウ刺し」はぷりっぷりの食感で鮮度の良さがわかります。脂がのっており旨味が強い。厚く切られており量があります。これはビールが進みますし、日本酒も欲しくなります。

ツマを丁寧に揃えた、盛り付けの美しさも嬉しいポイントです。

天風本醸造(250円)

定番のお酒は灘や伏見の大手酒造メーカーを使うことが一般的ですが、こちらは都内では非常に珍しい、山形・寒河江の地酒「天風」を長年扱っているそうです。天保七年から続く歴史ある酒蔵、古澤酒造のお酒です。

小徳利で250円と大変お手頃ですが、この天風は本醸造で申し分のない美味しさです。米の旨味の余韻が続き、おつまみが進む味わい。

タン元角煮(400円)

日替わり料理とは別に、月替りのおすすめがあるのは珍しいです。4月のオススメにあったタン元角煮を。みりんと醤油のバランスがよく、しみじみと美味しい一品です。他にも、にこみ、牛すじ煮、肉じゃがと煮込み料理のバラエティは豊かです。

酎ハイ(300円)

隅田川以西といえば、酒場のお酒の主役はビールより酎ハイかもしれません。しっかり度数が高く、ピリっとした炭酸が喉を刺激します。

焼きとり(400円)

魚介類がメインということもなく、天ぷら、とんかつまであります。こうなると焼鳥は専門店と比べ片手間の料理になりがちですが、カウンター前の焼き鳥台で丁寧に焼き上げてくれました。オールマイティーで何を頼んでも美味しいのでしょう。

ネギが美味しいねぎまです。さらっとしたタレとネギに染み込んだ鶏の脂が秀逸。ついつい天風をお代わりしてしまいました。

飛び込み客相手ではない、地元で選ばれ続けてきた店

「駅のない場所で大箱の酒場を70年続けてきた」 これ以上『はむら』の魅力をいろいろ言う必要はないかもしれません。地元の人が贔屓にする店は、それだけの理由があります。こうした酒場があるまちは、いい街です。今井街道を走る都営バスに乗って、江戸川区松江を訪ねてみませんか。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名大衆季節料理 はむら
住所東京都江戸川区松江2-2-17
営業時間16:00~22:00(水定休)
開業年1952年