静岡らしい肴で飲みたい。桜えびや黒はんぺんなどありますが、鶏料理にも個性があります。70年続いてきた「中村屋 常磐町」で、名物の親子丼や焼鳥をつまみにお昼酒を楽しみました。
静岡のご当地料理のひとつ「親子丼」
全国区の料理にも地域差があり、そこから感じる風趣もまたお酒を美味しくします。
静岡では、親子丼は卵とじではなく、炒り卵と煮込んだ鶏肉を茶飯にのせたものを出す店があります。ごく限られた店の名物というわけではなく、独特な親子丼は静岡駅の駅弁にもなっています。
静岡駅に近く、特に歴史がある店といえば「中村屋 常磐町」です。お昼も営業していることから、昼食を兼ねたお昼酒を楽しみに伺ってきました。
店構えはどことなく洋風ですが、店の歴史は長く、店内は昭和中頃の雰囲気を色濃く残しています。
昔サイズの木製のテーブル席と、横には4人がけの小上がりというつくり。店の奥は厨房で、ひっきりなしに予約が入る持ち帰りのお弁当の準備に、お店の皆さん総出で忙しく調理されています。
レトロで落ち着いた雰囲気。漂うみりんや醤油、酒を煮た甘い香り。BGMはなく、一台のテレビから流れるNHK総合の天気予報の音声が静かに流れていました。
大変人気のある親子丼の店で、お弁当が飛ぶように売れていきますが、店内で食事をされる方はほどほどで、落ち着いてお酒が楽しめます。夜は居酒屋利用する人も多いようです。
それでは、安定のキリンラガービール(中びん620円)で乾杯。
品書き
お酒と鶏料理のメニュー
ビールは瓶ビールのみ。お酒は白鹿の常温かお燗酒(470円)、静岡の地酒(670円)もあります。
お酒のおつまみとして、特選いたわさ(520円)、やきとり・皮やき(各220円)、あみ焼(750円)、から揚(850円)、とりわさ(750円)、とり皮ポン酢(420円)が用意されています。
親子丼のメニュー
親子丼は、静岡ならではの炒り卵をつかったものが並(820円)、上(1,000円)、特上(1,200円)の松竹梅。もうひとつは、半熟の卵を煮た鶏にのせた半熟(1,300円)。
品書きは簡潔で、これだけです。
上等な甘さがあとひく鶏料理
やきとり・皮やき(各220円)
無駄のない焼鳥。整っていて、箸袋の雰囲気も含め、老舗らしい素晴らしい一品。
大きくぎゅっと串打ちされており、皮も正肉もともに「みっちり」という表現があてはまります。
味付けは、東京の老舗鶏料理店のそれよりも一段甘い印象です。それでいて、くどさはなく、上等な旨さを感じます。
親子丼 上(1,000円)
親子丼は、上と特上が二色にわかれています。
丼ぶりをあけると、眼前に見事な二色のコントラストと、同時に、みりんや酒、椎茸の香りが顔全体を包み込みました。
甘い炒り卵と、甘めに煮られた鶏肉、椎茸、かまぼこ、筍がたっぷりと盛られ、深さ4cmほどの厚い層をつくっています。かなり具が多く、アタマをつまみに飲むというのがぴったりです。
具の下からやっと顔をだした茶飯も、これまたすき焼きの割り下で炊き上げたような味で、鶏や卵と非常によく調和しています。
甘いという言葉が続いていますが、この味付けが好きではない人はいないと思います。
鶏肉は弾力がありながらも、脂を残しつつジューシーで絶品。肉厚の椎茸の濃厚な旨味もお酒を誘います。
静岡の親子丼のその特徴的なビジュアルだけではありません。独特な豊かな甘さとコクのある醤油、そして鶏の旨味からくる美味しさをお伝えできればと思い、今回ご紹介させていただきました。
このかたちの親子丼を出す店は他にもあります。いろいろ探してみるのも楽しいと思います。
記憶に残るご当地の味。大満足です。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)