中央線の高架沿いで静かに佇む大衆割烹「和田屋」。高円寺や阿佐ヶ谷などにある和田屋と同じ、和田屋暖簾の一軒です。
使い込まれても手入れは行き届いた店構えが、中央線の音が優しく反響させています。店内も同様に、古さというよりは「年輪を重ねてきた」という言葉が似合う雰囲気です。創業から幾十年、昭和・平成・令和と、西荻のノンベエを迎えてきたいぶし銀の酒場へ、いざ参りましょう。
昭和の酒場遺産「大衆割烹」
縄のれんと大きな赤提灯が目印。看板の「大衆割烹」の文字の通り、鮮魚を中心とした飲み屋です。飲み屋にもいろいろなスタイルがありますが、「大衆割烹」は半世紀ほど前に広まった、元祖・鮮魚酒場です。現在は寿司酒場に漁港直送など、多くの魚介専科型が登場したものの、やはり老舗の大衆割烹は安定感が違います。
木造で造作が作り込まれているこういうお店は、内装が音を吸収してくれます。ですので話し声でにぎやかになっても、決してうるさくは感じさせません。
創業時からずっとサッポロビール
「いらっしゃい」と物腰柔らかな女将さんに迎えてもらい、そのままの流れで大瓶をもらって、それでは乾杯。
看板にはレトロな楕円形のサッポロのロゴが残されていますが、ビールは黒ラベル登場以前からずっと赤星(サッポロラガー)だそう。大びんで580円は今の時代嬉しい価格設定です。
樽生はサッポロ黒ラベル(450円)、瓶ではヱビスも選べます。
旧サッポロ飲料時代から、酒場のロングセラー割材であるポッカサッポロの玉露茶ハイ(380円)を筆頭に、レモン酎ハイ、バイス、ホッピーなどが揃います。
料理はおきまりはなく、季節に応じて掛け替えられていく短冊がカウンターにぶら下がります。新物のカキフライ(580円)や、自家製あさり佃煮(300円)なんて文字を見つけると、あれもこれも頼みたくなってしまいます。
冬季はお一人様でも鍋料理が人気。お刺身は三浦沖のつり鯵(650円)など、特長づけたものが加わります。どれも、最近の酒場値段よりひとまわり手頃な金額になっており、一人飲みで3品くらいはいけそうです。
卯の花とニシンの昆布巻が、この日のお通し。一口目から、しっかりとわかる料理の良さ。お通しに手を抜かない酒場は、一品多めに頼みたくなります。
大衆割烹の名の通り、丁寧な仕事を味わう
刺身3点盛り合わせ(500円)。これでワンコインという、値段の手頃さは嬉しいですが、なにより、マグロもカンパチも甘海老もものがよく、身の角がぴんと尖っています。
こうなると、欲しくなるのはやはりお燗酒。フォルムがかわいい、瓶ごと湯煎ができるお酒が運ばれてきました。銘柄は珍しい、下総神崎(千葉県香取郡)の鍋店がつくる「仁勇」です。
成田や佐原では一般的な銘柄ですが、東京の西荻窪の酒場で定番酒となっていることは大変興味深いです。どっしりしつつ飲み飽きない味を楽しみます。
大衆割烹の品書きで季節を感じる――。ここはやはりカキフライ(580円)をいっておきましょうか。揚げてもまだ大ぶりの牡蠣が、たっぷりの生野菜といっしょに登場しました。表面はぱりっと、中からはそれまで水分の逃げ場なく熱せられていた身が、ぷりっと口の中で弾けます。
玉露ハイは、酒場の揚げ物や洋食系を引き立ててくれる酎ハイだと思います。製氷機氷ではない、溶けにくい小さな氷山は見た目も美しいです。
熱いからきをつけてね!と、やってきましたほうれん草入りポテトグラタン(480円)。短冊も赤枠で囲まれたお店のおすすめでロングセラーの一品。オーブンで焼き上げるので注文はお早めに。飲み屋のグラタンに惹かれる人は結構多いのではないでしょうか。
商店街の個性となる、老舗個人店
西荻平和通り、街の景色に馴染む赤提灯。和田屋のような個人店は、商店街の財産だと思います。この街に、賑わいがまた戻ることを願っています。
ごちそうさま。
和田屋(暖簾分け一覧)
十条 和田屋
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 大衆割烹 和田屋|西荻窪 |
住所 | 東京都杉並区西荻南3-15-11 |
営業時間 | 17:30~23:00頃(不定休) |