近年定着しつつあるクラフトビール。キリンビールが開発した少量提供が可能なクラフトビールサーバー「タップマルシェ」の登場や、店内醸造を行うブルワリーパブの相次ぐ開業もあり、いまでは日常的に飲めるようになりました。
そんな時代だからこそ、もう一度、大手メーカーのビールの美味しさを考えてみるというのも、面白いのではないでしょうか。
1世紀を超えて続く歴史あるビールは、ただの飲料というよりは日本の文化の一部になっています。様々なシーンで飲まれてきたビール。メーカーだけでなく原料農家から酒販店、飲食店の注ぎ手、ひいては私たち消費者まで、膨大な人々が携わりこだわり続けてきたものです。
ナショナルビールは多様な視点から追求されてきました。例えば、樽生ビールの注ぎ方という切り口からも、探求は続いています。そんなこだわりに触れられるスタンディングバー「ビールスタンドミナト」が大船にできました。
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当初は鎌倉で出店を検討していた
横浜から東海道線で15分。鎌倉方面と名古屋方面の分岐地点として大船駅が開通すると、この地は鎌倉に並ぶほどに発展しました。駅の周辺は100軒以上存在する居酒屋をはじめ、リーズナブルな立ち飲み屋も立ち並ぶ、巡って楽しい飲み屋街となっています。
駅から3分ほど。賑わう飲み屋街の中にある、ちょっぴりオシャレな袖看板が目印。
長屋的な建物の奥にあります。
お店はコンパクトなL字カウンターだけの立ち飲み店。定員は7名。そして、カウンターにはワクワクするビールタップが立ち上がっています。
貴重なスウィングカランを4本も設置
昭和初期から中頃にかけて主にビヤ(ビア)ホールで使われていたスウィングカラン。この復刻版を使った注ぎ分けにこだわるお店です。
スウィングカランは、1899年(明治32年)に日本で最初にビヤホールを名乗った「恵比壽(ヱビス)ビヤホール」・現在の銀座ライオンの一部店舗をはじめ、現在このカランが使われているお店は復刻版を含め40店舗ほど。
現在のサーバーはコックを手前に倒すとビールが流れますが、スウィングカランはZ軸を芯にしてハンドルのように回すことで流速や液と泡をコントロールします。
なにはともあれ、早速一杯いただきましょう。サッポロ生ビール黒ラベルの一度注ぎをお願いします。
サーバーメーカーからの転身
ご主人の木村明宏さん。お店を開くまでは、スウィングカランの復刻版も製造するビールサーバーメーカー、碑文谷のボクソン工業に勤めていました。実は、ボクソン工業は木村さんのおじいさんが立ち上げた会社。
ビール会社系列から独立開業する方、酒販店から独立開業する方はこれまでもいらっしゃいましたが、ついにビールサーバーメーカーからの転身です。
有名ビヤ(ビア)ホールをはじめ、様々な店舗のサーバーの設計・メンテナンスをしてきた木村さん。技術に裏付けされた、エンジニア的視点から話してくれる注ぎ方のこだわりは、マニアックですが大変楽しく、勉強になります。
サッポロライオンの一度注ぎとほぼ同じ手法で入れた一杯、サッポロ黒ラベル(税込590円)。乾杯。
苦味が集まる粗い泡を切り捨てて、一度注ぎながら細かな泡が残り、泡は優しく甘くビールはいつもの黒ラベルよりさらに爽快感が強い。
サービスで一杯目には柿の種がついてきます。
4種類のビールを合計28通りで提供
さぁ、気になるメニューをみていきましょう。
ビールは、なんと大手ビールメーカー4社揃い踏み。ナショナルビールの飲み比べをこれほど本格的なサーバーで提供するお店は滅多にありません。
銘柄は、アサヒ生ビール(マルエフ)、キリンラガー(レギュラーラガー)、サッポロ黒ラベル、サントリー ザ・モルツ。
この4銘柄を、7通りの注ぎ方から選ぶことができます。ね、とってもマニアック。全28通り、ワクワクが止まらない!(笑)
一度つぎ、二度つぎ、三度つぎ。これをさらにミナト流にアレンジたものまであります。
料理はもちろんビールと相性が良いものオンリー。
看板料理は豚肉のビール煮込(税込600円)。ビールの提供に注目しがちですが、料理も本格的です。コクがあって二杯目を誘う味。
スウィングカランは注ぎ手次第で変わるから面白い
二杯目は、キリンラガーの二度つぎをアレンジした「MINATOつぎ」(税込590円)。品書きには、苦味、炭酸のテイスティングイメージが4段階で表されていて、泡のイメージもナチュラル、クリーミーと表記されているので、飲みたいビールの参考になります。
泡をさらに下から細かな気泡が持ち上げるように立ち上がる、素晴らしい一杯。キリンラガーらしいホップの効いた締まりのある味が実に心地良いです。
キリンでは「泡のリング」と読んでいる、手間をかけたビールにだけできる泡のラインができました。
サントリーモルツをスウィングカランから注ぐのはとっても貴重
黒ラベル、キリンラガー、そしてマルエフも、銀座ライオン(中央区)、麦酒大学(中野区)、ランチョン(千代田区)等でスウィングカランからの一杯を飲むことができますが、サントリー ザ・モルツだけは、これまで常時スウィングカランで提供するお店はなかった(2019年Syupo調べ)です。
ここに来て、一番の驚きと発見だと感じたのは、そんな「サントリー ザ・モルツ」の美味しさ。
サントリー ザ・モルツの「OFUNAつぎ」(税込590円)。
正直に「目が覚める美味しさ!」。モルツの樽生そのものが関東ではあまり見かけることがありませんが、これをさらに磨き上げた一杯は、まさに格別といえるもの。普段、別の銘柄を飲むことが多いという方も、これはぜひ試してみてほしいです。
ナショナル4銘柄のこだわりの樽生を並行飲み比べができる機会なんて、滅多にありません。4杯目はもちろんアサヒのマルエフを。※お酒は適正飲酒でほどほどに。
三度つぎのアサヒマルエフ。
優しい味のマルエフが少しエッジが立ったような印象に。泡の苦味、ビールののどごしの良さ、余韻の麦の旨味が心地よく消えていきます。
大手ビールの魅力を再発見してほしい
「昭和に主流だったカランを使うので、歴史ある街・鎌倉でお店を開こうと探していました。大船で途中下車をしたら、賑わいのある町並みに惹かれ、悩んだ結果大船に出店しました。店名のミナトは、大”船”の日常に、ときどき港に立ち寄ってリラックスしてほしいという想いからつけました」と木村さん。
9年間、ビールサーバーメーカーに勤めナショナルビールの実力を体感してきた木村さん。大手ビールの魅力を再発見してほしいと話します。
飲み方はひとそれぞれ。家の冷蔵庫にも入っているようないつものビールの違った一面に出会う場所”BEER STAND MINATO“。機会をみつけて訪ねてみてはいかがでしょう。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | BEER STAND MINATO ( ビールスタンド ミナト ) |
住所 | 神奈川県鎌倉市1-8-3天正ビル1F 予算3,000円 |
営業時間 | 営業時間 [月~金] 15:00~21:15(L.O 20:50) [土・日・祝] 14:00~21:15(L.O 20:50) 日曜営業 定休日 不定休 |
開業年 | 2020年10月14日 |
公式サイト | ホームページ |