馬が葉っぱを食べると酔っ払う木「馬酔木」。これで、”あしび”と読みます。
1970年(昭和45年)、大阪万博と同じ年に「馬酔木」と名付けられたオーセンティックバーが甲府の繁華街に開業しました。以来50年間、ほとんど変化することなく同じ場所で店を続けてきた「馬酔木」は、甲府のタイムカプセルのような存在です。
甲府の繁華街・中央は、甲府城址(舞鶴城公園)から旧甲州街道にかけての600mほどのエリア。城下町らしい町並みに、散策するだけでも甲府の魅力が感じられます。
地元百貨店、県庁、市庁舎などに囲まれた「春日通り(あべにゅう)」一帯がにぎやかな場所で、1本入った「裏春日通り」は歓楽街です。ふたつの道を結ぶようなビル内横丁が無数にあり、そのひとつにはなんとも幻妖的な「地下バー街」なる看板がぼんやり灯っています。
目指すお店はこちら。地階にあるのですが、現在営業しているお店はほとんどなく、つきあたりの「馬酔木」までは、かなりディープな空間にダイブしているような気分になるものです。
蛍光灯1本で照らされた重厚な扉。よくみれば「馬酔木」の文字。シラフではかなり勇気がいる、なんていうのはお店での会話です。バーは非日常を楽しむ場所、これくらいが逆に心地よかったりすることも。
アクセスから考えれば想像もつかないくらい、ぴしっとしたオーセンティックバーのいい雰囲気です。最近の銘柄が並んでいなければ、昭和40年代の写真と言っても納得してしまいそうです。
仕事帰り、スーツ姿の常連さんがオンとオフの境目に立ち寄るようなお店。今日も常連さんで賑わっています。
店とともに甲府でシェイカーを振り続けてきたバーテンダーの野々村さんは、この道50年以上の大ベテランです。
飴色の空間ですが、もともとは白い壁だったのだそう。まさにいぶし銀。ボトルキープは鍵付きの棚に仕舞われるのは、にくい演出ですね。30人の常連さんだけの特別なサービス。
国産シングルモルトウイスキーがありますが、やはりベテランバーテンダーさんにはカクテルをお願いしたいもの。まずはジントニックから。
それでは乾杯。
チャームとして出てきたのは、ナッツだけではなく、なんと大根煮。ご主人のあったかいもてなしが心にしみます。
東京プリンスホテル系列のバーで修行し、26歳で独立して「馬酔木」を開いたマスター。どことなくホテルバーの所作が感じられるかもしれません。
さて、次はマンハッタンを。甲府ならば、南アルプスに沈む夕日が美しいのでしょうね。スタンダードカクテルのぴしっとした味に、少し背筋が伸びる感じがしました。
幅広い層のお客さんが通い、大切な時間を共有している馬酔木。甲府を訪れた際は、皆さんの世界にそっとお邪魔させてもらってみてはいかがでしょう。マスターはきっと笑顔で迎えてくれるはずです。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
馬酔木
055-233-3443
山梨県甲府市中央1-15-9 春日一番街地下
18:30~24:00(日定休)
予算3,000円