甲府『くさ笛』昭和39年開業、名物女将の山菜料理と山梨のお酒

甲府『くさ笛』昭和39年開業、名物女将の山菜料理と山梨のお酒

2021年6月18日

朗らか女将が切り盛りする「くさ笛」は甲府を代表する酒場のひとつ。女将が摘んだ山菜が並びます。女将さんに会いに集う常連さんと肩を並べて、カウンターで郷土色に染まりましょう!

昭和の東京オリンピックが開催された1964年(昭和39年)に開業した「くさ笛」。

女将さんが若い頃に開いて以来、いままでずっと店に立ち続けていらっしゃいます。旅には出かけられないけれど、全国から飲みに来てくれる人たちのお話を聞くことで旅行に行った気分になるのが楽しみだと話します。

甲府を訪れたら、一度と言わず、何度も通いたい一軒。出張で甲府を訪れる機会が多い常連さんからは、山梨のお母さんと慕われています。

スポンサーリンク

駅から10分南下した先が楽しい飲み屋街

武田信玄公の像が勇ましい姿で迎えてくれるJR甲府駅。駅周辺はチェーン店や宴会向けの居酒屋が多く、ディープな甲府は駅より南に10分ほど向かった先にあります。

一時期より飲食店が増加し、少しずつとはいえ活気が戻ってきたと言われる甲府の歓楽街ですが、再び昨今の状況から苦しくなっています。若い人が飲食店を挑戦しやすい雰囲気が、今後も広がることを期待したいです。

目指す「くさ笛」は、細い路地を潜り込んだ先にあります。「オリンピック通り」と書かれた、長屋型の横丁内にあります。そのロケーションから敷居が高く感じられてしまいそうですが、そんなことはありません。女将さんがはじめての人でも優しく迎えてくれます。

オリンピックの年にできたから「オリンピック通り」。完成時からずっと続けているお店が「くさ笛」です。甲府中心街の空洞化で一時はほとんど空き家になったそうですが、いまはお店が増加中。横丁ブーム、酒場ブームだけでなく、「くさ笛」というランドマークの存在が影響しているように思えます。

赤ちょうちんの縄のれん。横に長い店で入り口も長く開放的。

いらっしゃい!女将さんが元気に迎えてくれます。

お店はカウンターだけの14席(通常時)。入ると女将さんが座る場所を指定してくれます。常連さんとも意気投合できるようにとベテランの采配が行われます。

17時のオープンですが、その時間にはすでに常連さんがいらっしゃることも。満席という日もあるので口開けに向かうことをおすすめします。

飲み始めはやっぱりビールから。樽生はアサヒスーパードライ。瓶はアサヒスーパードライキリンラガー。今日はどっちの気分?

それでは乾杯!

品書きは短冊で

壁一面を埋め尽くしている短冊の数々。今日は何を飲みましょうか。

ビールは樽生(500円)、瓶(700円)、ずらりと並ぶ日本酒は10種類ほど。本醸造や純米吟醸までカテゴリーはまちまちですが、値段は共通でコップで700円。大トックリで1,000円です。

そして、山梨の地酒は日本酒だけではありません。古くからぶどう酒・ワイン造りが盛んな地だけあって、地物の一升瓶ワイン(1杯500円)が用意されています。

料理はだいたい500円前後。甲府の郷土料理である鳥もつ煮をはじめ、おかきやうど、のびるなど、地元の味か勢揃いしています。

今日のおすすめはホワイトボードに書き加えられています。

山梨らしいといえば、店名を冠した「くさ笛どっこ」なる料理です。これは、冷奴の上にまぐろの中落ち(ねぎとろ)を載せたもので、ユニークな名前もあって、初めて来る人はこぞって注文するのだそう。

なぜ山梨らしいかというと、山梨県は全国でマグロ消費量が2位(1位は静岡県)という、まぐろ大好きな県民性から。周囲を山に囲まれた山梨県なのに意外ではないでしょうか。

女将さんの手料理と山梨のワインを楽しむ

お通しはサービスです。地元の食材をつかった煮物などを出してくれます。毎日のように通う常連さんが多いので、日々違うものを出すように工夫していると女将さん。

これはホップ?(笑)取材時はふきのとうが旬を迎えていました。

昇仙峡の近くに暮らす女将さん。日々山に登っては山菜をとるのが日課だといいます。そしてとれたての山菜をこうして夜は店に出してくれます。

山菜の話を聞いていると、次々と袋からでてきました。新鮮な山菜を食べる機会は都市部暮らしだと多くはありませんから、これは非常に魅力的です。

ふきみそ豆腐

ふきみそ豆腐(ふきみそ単品で500円)は、女将さんのおすすめ。

山菜の苦味は、野生の力強さの証。この深いコクはお酒を誘うこと間違いありません。大人味でちびりと摘んでいい気分。

笹一酒造の旦

お酒も女将さんにおまかせ。最近人気というのが、山梨県大月市笹子にある笹一酒造の新ブランド「」(ダン)。

無濾過生原酒です。力強いお米の旨味がガツンと舌の上で広がります。それでいて飲み心地がよく、飲むたびに新鮮な美味しさを感じさせてくれます。

イケダワイナリーのルージュ

「農作業の合間に、お茶ではなくワインを湯呑茶碗で飲むこともあった」というのは女将さんの話。

その頃の名残もあって、山梨ではワイングラスではなく湯呑茶碗で飲む習慣があります。特別で高級なものとしてではなく、日常のありふれた飲み物としてのぶどう酒(ワイン)があるのがとっても魅力的です。

昨今は欧米にも負けないワインづくりが盛んに行われていますが、酒場のワインはこういう一升瓶から注ぐ光景もいいものですね。

イケダルージュ。マスカットベリーAとメルローをつかった、若々しい元気な赤ワイン。

せり卵とじ(600円)

女将さんが目の前で次々調理してくれるのが楽しい。年季の入ったフライパンでちゃちゃっと調理してくれました。

このセリは、これまで食べたどこのセリよりも味が濃く、みっちりと詰まっているような歯ごたえです。甘さ控えめの味付けもよく、これがワインとの相性抜群です。

集うお客さんたちは、皆さん甲府市内で働くベテランさん揃い。一期一会の一体感は、文章で残すのはとても無理そうなのですが、これはぜひ皆さんがご自分でこの空間に染まって感じていただきたいです。甲府の街がもっと輝いてみえるはずです。

笑顔が素敵な女将さん、どうぞ末永くお元気で!

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名くさ笛
住所山梨県甲府市中央1-20-23
営業時間営業時間
17:00~23:00
定休日
土曜・日曜・祝日
開業年1964年