糸魚川「蒸汽茶屋」 ここは翡翠の街。海鮮汁を肴に明るいうちから一献。

糸魚川「蒸汽茶屋」 ここは翡翠の街。海鮮汁を肴に明るいうちから一献。

新潟県最西端に位置する糸魚川市。世界的にも珍しい翡翠(ひすい)の産地であり、景勝地「親知らず」や、大断層「糸魚川-静岡構造線」があります。また、化石の発掘が行われてきた場所でもあり、市街を含む全域がユネスコ世界ジオパークに指定されています。

今回はこの糸魚川で、地質に興味がある人も、お酒に興味がある人にもおすすめの「蒸汽茶屋」をご紹介いたします。千円台の手頃な価格で山盛りの海鮮汁を食べさせてくれる素敵な飲み屋兼食堂です。嬉しいことにお昼から通しで営業しています。

 

糸魚川へは東京から北陸新幹線はくたか号で約2時間。または、食事付き観光列車「雪月花」が走ることで話題になったえちごトキめき鉄道「日本海ひすいライン」(旧JR北陸本線)に乗車し、上越市の直江津駅から約20分でアクセス。

 

北口からまっすぐ日本海へ伸びる駅前通りの名前はずばり「ヒスイロード」。駅前には巨大な翡翠の原石がオブジェとして飾られています。加工していなくても繊細な美しさがあります。

 

南口には、糸魚川市が運営するジオステーション ジオパルがあり、ジオパークの観光拠点として案内所や街や交通の歴史を伝える展示が行われています。

 

もう少しだけ観光を。駅から徒歩10分。ヒスイロードの先、堤防の手前には見晴台が設置されていて、登るとそこにはダイナミックな日本海が広がっています。

 

糸魚川市内には創業200年になる清酒・謙信をつくる池田屋酒造があり、店頭で購入も可能です。銘柄の謙信は、武田信玄に塩を送ったことで知られる越後の武将・上杉謙信から。ここ糸魚川から松本までは「塩の道」という、信州に塩を運んだ経路があります。現在はJR大糸線が近い経路をなぞっています。

 

記憶に新しい糸魚川大火で市街は大きな被害がでました。老舗の酒蔵「加賀の井酒造」や酒販店も歴史ある建物を失いましたが、商売はその地で復興しています。糸魚川を訪れた際にはぜひ地元のお酒を地元の酒販店で購入したいですね。

 

古くからの飲み屋街や老舗の駅前酒場もある立派な糸魚川。ぜひ出張や観光で訪れた際は飲み歩いてみてください。

 

さて、おまたせしました。糸魚川駅から徒歩10分ほど。昭和レトロな佇まいの「蒸汽茶屋」。事前の情報がないと、その渋さから躊躇してしまうかもしれません。

 

入ってみると、そこは畳敷きの広間となっていて、魅力的な料理が書かれた短冊が掲げられています。昔の海水浴場周辺にあった食堂のよう。姫川港という港は近いですが、海水浴場は近辺にはありません。

 

営業時間は午前11時から午後9時まで。たとえお昼時を逃したとしても、ここに来れば安心して地魚をつまみにお酒が楽しめます。

 

まずは、ビールで喉を潤したい。キリン一番搾り生ビール(650円)で乾杯!

 

ビールは大瓶(650円)もあります。日本酒は定番の清酒から300mlの地酒まで、すべて土地のもの。田原酒造の雪鶴、先ほど蔵前を歩いた謙信、猪又酒造の月不見の池、渡辺酒造店の根知男山。一合売りの奴奈姫(猪又酒造)純米吟醸生は、新潟の酒米「越淡麗」と五百万石をつかった地産地消の銘柄です。

 

食堂ですからもつ炒めやカツカレーもあります。それでも、品書きの先頭は魚介類。たら汁、かに汁、えび汁につみれ汁。ここは地元のお酒好き御用達の汁で飲むお店です。

 

黒板メニューは更に興味深いです。幻魚(げんぎょ)焼き(600円)は糸魚川の名産品で、ノロゲンゲというゼラチンのカタマリのような魚。ヒメダラ、ホッケ、イカ焼き、メギスのフライ、ハタハタ唐揚げにトチウオと、ご当地鮮魚のオンパレード。

 

お刺身だって見逃せません。南蛮海老の愛称で呼ばれる上越の甘えエビからはじまり、イカ、バイ、アジ、キジハタ、サンマ、ホウボウ、ツヅラメ(マソイ)と並んでいます。大都市ではなかなか味わえない魚が多いと興奮しませんか。入荷のタイミングでは全国的にも珍しいアンコウ刺しも提供されます。

 

そんな品書きから選んだものは、たら汁と甘エビ。汁というと大きなお椀でくると思いますよね。ここは結構大きな鍋で熱々で提供されます。

 

兜から伸びるツノがピンとし、身はぷりぷり、目は透き通り鮮度の良さがわかります。そして申し分のない大きさ。むきたてで大変に鮮やかな色をしています。兜のなかまでしっかり味わいたい、とても美味な甘エビ(800円)です。

 

あわせるお酒は奴奈姫。地物同士の組み合わせは旅先の贅沢のひとつです。

 

たら汁は、キモを含めタラをぶつ切りにしたもの。骨ごと入っていますが、とてもよい出汁がでており、身も非常にジューシーです。ふぐやアンコウと比べるとタラは見劣りする魚かもしれませんが、これを食べると考えがかわります。

 

糸魚川名物のたら汁を肴にお燗酒。きっと満足する美味しさです。ずわい蟹の足と甲羅の一部が沈むカニ汁、甘エビが山ほど入ったエビ汁も魅力的。つみれ汁はメギスを使用したもので絶品と聞きます。

地元の人々に慕われ長く続く食堂や居酒屋は素晴らしい。改めてそう感じられた1軒でした。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

蒸汽茶屋
025-553-1100
新潟県糸魚川市寺島2-1-15
11:00~21:00(水定休)
予算2,000円