東京駅から上越新幹線で最速で70分。首都圏に暮らす人々にとって最も身近と言えるスノーリゾート、越後湯沢。川端康成の小説『雪国』の冒頭にある「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」のトンネルは、越後湯沢へ向かう上越線・清水トンネルのことと言われています。
川端康成は物語の舞台となった湯沢に滞在し、雪国を書き上げました。それが昭和9年から昭和12年のこと。今回ご紹介する「一二三」は、川端康成が雪国の執筆をはじめた1934年(昭和9年)に創業した鮮魚店を前身とする大衆割烹です。
越後湯沢駅から徒歩10分ほど。湯沢高原ロープウェイの山麓駅近くに構える立派な飲食店です。初代が鮮魚店として創業し、二代目が上越新幹線開業の年、1982年(昭和57年)に魚料理を提供する割烹に業態を切り替え、現在は三代目が老舗暖簾を受け継いでいます。
観光地の商店街にあるとはいえ、奇をてらう様子はなく、どっしり構えた安定感ある雰囲気が素晴らしいです。品揃えや価格も日常的な利用に向けたもので、お客さんは観光業などに従事する地元の方が多いようにみえます。
古くても手入れがされている”ぱりっ”としたカウンター。軽く背伸びをしたら、一杯目のビールをいただきます。キリン一番搾り(570円)で乾杯!
ビールは瓶でアサヒも選べます。日本酒「八海山」を手掛ける八海醸造による地ビール「ライディーンビール(旧八海山泉ビール)」も用意されています。
なによりも、米どころ、酒どころの魚沼地域の飲み屋らしい、手頃な価格で豊富な日本酒ラインナップが魅力です。
期待が高まる短冊メニュー。(画像をタッチすると拡大されます)
一二三は今も昔も魚の店。山間部にあるものの日本海で水揚げされる魚介類を中心になかなかの品揃えです。にし貝、甘海老、ヤリイカなどは定番で、ヒラメやキンメ、天然岩牡蠣なども仕入れ次第で加わります。
刺身は830円、小鉢は310円からと、手頃な価格で酒の肴が用意されています。広く日本海側で食べられているワタリ蟹汁(520円)も魅力的です。真子鰈にのどぐろまで揃っています。
お通しはふき味噌にイカ煮など。
すぐにでるおつまみとして、氷頭なます(520円)。鮭の鼻先にある軟骨の部分、透き通って氷のように見えることから氷頭と呼ばれ、これを酢で和えたもの。鮭漁が盛んな地域ならではの酒の肴です。ちびりと摘んで、日本酒をきゅっと。
お刺身盛り合わせ1人前(品書きにはありませんが、千円程度で用意いただけます。)。ニシ貝(西バイ)はつぶ貝の仲間。キレイなクリーム色で非常に弾力のある食感と、甘く爽やかな風味が特長です。メダイ、まぐろ、たこ、鯵、甘海老。鮮度がよく盛り付けもきれいです。
一升瓶で16種類ものお酒を用意していて、菊水や久保田、朝日山に越の誉など有名どころからツー好みまであり揃っています。朝日山(1合360円)のお燗をもらって、ちびりちびりと。雪が少し舞うような時期、お燗酒が最高に美味しくなります。
特別純米原酒 八海山の冷酒は特別な徳利でキンキンに冷やされています。アルコール度数は18度。氷点下10度くらいでは凍りません。爽快な口当たり、あとからじんわり体をめぐるお酒のほろ酔い感などを楽しむ、八海山が提案する飲み方です。
湯沢を流れる清流・魚野川に生息する天然あゆが昔からの名物。姿一本塩焼きで1,030円~と少し値が張りますが、海の幸だけでなく、山幸も楽しめる湯沢ならでは肴。香り豊かで身は繊細でふっくらとしていて、噛むほどにコクを感じます。
通年に渡って楽しめる日本海の海の幸に加え、春の山菜、夏の岩魚などの渓谷の幸、新酒の季節に楽しむ地酒三昧と、魅力ある1軒です。女将さんの丁寧で明るい接客も印象的でした。
湯沢の夜は静かですが、宿泊された場合はふらっと立ち寄られてみてはいかがでしょう。駅から近いので新幹線など列車の乗継ついでに途中下車して飲みに行くこともできます。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
一二三
http://ww51.et.tiki.ne.jp/~hifumi/
025-784-2039
新潟県南魚沼郡湯沢町湯沢372-1
17:30~22:00(ランチあり・水定休)
予算3,000円