2017年6月末、弘明寺の「市民酒場三河屋」が一世紀の歴史に幕を下ろしました。年輪を重ねていた店舗は集合住宅に姿を変え、またひとつ横浜の大衆酒場の灯りが消えたと悲しい気持ちでいました。
市民酒場は、戦中の食糧難の時代に行政主導でつくられた酒場の配給組織。横浜特有の制度でした。
中区の店舗でつくる中支部、戸部など西区の店舗でつくる西保土ヶ谷支部、子安などの店舗でつくる神奈川支部、そして三河屋など大岡や南区の店舗でつくる南支部の4つがあり、戦後も相互の交流は続いたと聞きます。
会員の高齢化や再開発で惜しまれつつも閉業された酒場も多いですが、最盛期は30軒から40軒あったそうです。
横浜の老舗酒場を語る上で外せない市民酒場。その「三河屋」が、なんと嬉しいことに再開。息子さんが暖簾を受け継ぎ、店舗も新しくして営業をはじめました。
弘明寺駅は京急線の各駅停車のみが停車する小さな駅。
地名の通り、弘明寺の門前町として古くから栄えた歴史があります。
踏切を行き交う赤い電車と、駅前は坂のある商店街。変化が続く横浜湾岸地区やニュータウンにはない、昔懐かしい空気にほっとします。
以前と場所をほぼ同じにして、小田原提灯を灯した「みかわや」。小路の奥にあり、知る人ぞ知るという佇まいです。
お店に入ると、細長い通路兼立ち飲みのスペースがあり、その奥に厨房、客間が置かれています。立ち飲みもなかなかいいものです。
店舗はコンパクトになり、カウンター4席とテーブル3卓という配置です。
カウンターには寿司店を思わせる氷冷式のネタケースがあり、いずれは魚など食材を入れたいとのこと。どこかグルメ漫画のワンシーンに出てきそうな雰囲気です。
飲み物メニューから見ていきましょう。ビールは樽生が黒ラベル、瓶では赤星、ヱビスの他、キリンラガーも用意されています。かつての店舗でもキリンとサッポロの併売でしたね。
酎ハイ(450円)は氷彩サワーベースです。
どれでも750円均一というスリム瓶の地酒。爛漫、あさ開、銀盤に秩父錦、長者盛も珍しい。濁りの白川も。お好きな銘柄はありますか?
焼酎はボトル売り(2,800円)もあります。和ら麦のボトルキープをしたい!
人気の酒場を支えてきた女将が注ぐ美味しい一杯。状態抜群のサッポロ黒ラベル生ビールで乾杯です。
おつまみは300円から、筆頭右上ポジションに「子袋」の文字。かつての名物が新しくなっても継承されています。市民酒場は大衆食堂と同じく魚から肉まで幅広く置いていることが多く、こちらも刺身やアジフライ、銀だら西京焼など酒場らしい顔ぶれです。どれもプラス450円で定食に組み立てが可能で、これまた市民酒場らしいでしょ。
ランチも営業されています。
冬は鍋もいいですね。アンコウ鍋1,500円は次回ぜひ食べてみたいです!
冷奴(300円)。普通のお豆腐と思って頬張ると、ねっとりクリーミーな食感と濃厚な味に驚くはず。千葉県鴨川市の菜の花とうふから取り寄せたこだわりのお豆腐と女将さん。
ちょっとの生姜醤油でしっかりお酒を進ませるいいお味。
お刺身盛り合わせ(1,000円)。タイ、ブリ、そして本マグロ。
マグロはすじのない上等な赤身。軽くグラデーションがあり、脂の乗り方がちょうどいいです。いいマグロですね!とテンションますますアップ!
定番メニューに加え、日替わりのおすすめが色々と加わるとのこと。手のひらほどの大きな牡蠣は、軽く熱を加え、レアな焼き牡蠣のように調理されています。肉厚で食べごたえたっぷり。
こちらが子袋。塩コショウで味を整えた子袋炒めです。旨味がしっかりあって、その味は焼酎を誘います。バランスの良い味と香りの和ら麦をいただきます。
マヨネーズは昔から自家製で、それを使ったポテトサラダも変わらず人気の一品です。
とろっとろに煮込まれた豚の角煮も絶品。
ご主人は、みかわやの暖簾を受け継ぐ前は、老舗の有名洋食店で長く勤められていた方です。揚げ場はお客さんから見えるカウンターの内側で、こだわりのフライを次々と揚げています。職人技もまたお酒の肴になります。
味付けはお醤油かタルタルソースて。
品川区小山にあるパン粉専門店から仕入れた特別なパン粉を使い、さくっと仕上げたカキフライ。ジューシーさとサクサク感の調和に思わず頬が緩みます。
老舗酒場の新たな挑戦。かつての三河屋で飲んだことがある方はもちろん、お近くで飲み屋さんがお好きな方にもぜひ訪ねてみてほしい素敵な一軒です。
ごちそうさま。
市民酒場について
(取材・文・撮影/塩見 なゆ SpecialThanks/さか萬株式会社・サッポロビール株式会社)
神奈川県横浜市南区大岡2-7-5
045-741-5565
2018-11-28オープン。
※再開直後のため、事前にお店に予約されることをおすすめします。