「よさく」は酒どころ会津若松の夜を気軽に楽しみたいときにおすすめの一軒です。
歴史の教科書でも度々登場するこの地は、街の全体がひとつの博物館のよう。それは飲食店街もいっしょで、目指す「よさく」も重厚な建物たちに溶け込むなまこ壁が印象的な蔵のつくりになっています。
それはもう、店先に立つだけで旅情を感じるのに十分なほどです。
東北新幹線が接続する福島県のターミナル・郡山駅からJR磐越西線に揺られることおよそ一時間で会津若松です。別ルートとして、浅草駅から東武鉄道の特急列車に乗車し、今市、鬼怒川温泉、会津田島を経由し、会津鉄道で向かう方法もあります。
東京からさほど遠くないのに、両ルートとも古来の里の風景と壮大な自然をたっぷり満喫できます。
土地の景色に浸ったら、次は飲み屋街に浸りたい。赤べこが迎える町の玄関・会津若松駅から、目指すは会津若松の飲み屋街、上町・栄町です。駅から中心街までは徒歩10分ほどの距離です。
会津の料飲店は街の規模に比べ、その数は非常に多く、会津の酒造組合とともに「酒の街」として盛り上げようと熱心です。日本バーテンダー協会でも福島、郡山と並び、会津支部があるほど。
静寂な夜の栄町、ときおり店内から笑い声が聞こえてくる。煮物のような香りがふんわり漂い、たまらなくなって「よさく」へ。
創業から38年目。ご主人と奥様、気さくなスタッフの皆さんで切り盛りする優しい飲み屋です。東京は中野のレンガ坂にある人気日本酒バルでも修行経験を持つスタッフもいらっしゃって驚きました。
お客さんはほとんどが地元の皆さん。奥の部屋ではご隠居さんたちが一升瓶を囲んで酒盛り中。若いカップルや仕事帰りのお父さんなど、客層は様々。
全国新酒鑑評会で金賞受賞の常連でもある会津の酒。花春、会津中将、栄川、名倉山、辰泉、花泉に磐梯山、そして末廣。酒処どころだけあって、日本酒が大変充実しています。
酒類全般はサントリー系で、生ビールはプレミアムモルツ(500円)です。瓶では3社揃い踏みで中びん430円から。
酒どころといえど、一杯目はやっぱりビールで。トトトと注いで、では乾杯!
料理はどうしましょう。品書きをもらったら、大衆酒場らしい簡素なものでなかなか素敵。文字から想像するのが楽しいんですよね。
ご主人に相談しつつ、ここは土地の料理を中心に。
にしん山しょう(450円)。身欠きにしんを山椒の葉といっしょに酢、醤油、酒、砂糖に漬けたものです。江戸時代から親しまれる郷土の一品であり、すばらしき酒の肴。
北海道の身欠きにしんは船で新潟に運ばれました。新潟県新発田市と会津若松市を結ぶ越後街道を使い会津にも届いた乾燥した身欠きにしんは、山国らしく豊富に収穫可能な山椒につけてクサミを取って食べられるようになります。
こうして物流が未発達だった江戸時代にも貴重な海産物を会津の人は楽しんだそうです。そんな歴史背景も旨味を増してくれるというものです。
続いても会津の味、馬刺し。たてがみ、赤身(さくら)もありますが、珍しさでいえば「馬レバー」でしょう。
ぷりっぷりのレバーは、爽やかなのに脂のコクがしっかり良いんに残る絶品の味。ごま油がつくものの、そのまま塩で食べても十分にお酒を誘います。
誘われて頼んだお酒は、日本初の山廃仕込蔵となった末廣がつくる伝承山廃純米末廣。
酸味と甘味のバランスが秀逸です。冷たい状態でいただきましたが、お燗酒にしても美味しく、上質な玉露緑茶のような味わいが感じられるものです。
ご主人が長年続けるこだわりの煮込みは、モツ煮込みと牛すじ煮込みの2種類。
5時間ほど時間をかけて弱火でじっくり炊いて、地元会津の根菜をたっぷりいれて味噌で整えたもつ煮込み(370円)は、地元の常連さんに人気の定番料理です。具だくさん豚汁といいましょうか、その味は主張がしっかりある日本酒と好相性です。
日本酒をたくさん飲んでいってと、笑顔で話すご主人は、そうとうなお酒好き。利き酒セットやここでしか飲めない日本酒も揃えていて、日本酒ファンでなくとも楽しめます。
辰泉酒造の三代はオリジナルの純米銘柄。地元にきて、地元の飲み屋だから出会えるお酒たち。これだから飲み歩きはやめられません。
樽冷された花春の蔵出し生酒は、ご主人のこだわりのひとつ。一度も火入れをしていない生酒なのでもちろん常に冷却されています。フレッシュな味わいが楽しめます。
和やかな雰囲気に豊富なお酒と肴が揃った「よさく」、旅の一軒にいかがでしょう。ほっこりした気持ちになりますよ。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
居酒屋 よさく
0242-25-4614
福島県会津若松市馬場町1-42
17:00~00:00(基本無休)
予算2,800円