仙台『源氏』変わらないこと、保つことの素晴らしさ。文化横丁で70年

仙台『源氏』変わらないこと、保つことの素晴らしさ。文化横丁で70年

2018年6月17日

1950年(昭和25年)創業の「源氏」は、仙台取材の合間をみつけてはできるだけ飲みに立ち寄る、「とっておき」です。文化横丁の最古参と言われ、もとは穀物倉庫だった木造建築は、縄暖簾をくぐった瞬間に夢見心地にしてくれます。

さぁ、仙台きっての老舗酒場を一緒に覗いてみませんか。

東北最大の都市・仙台へは、東京から東北新幹線「はやぶさ」でおよそ90分。表高62万石の仙台藩の城下町は、その歴史や文物、そして豊かな東北の自然の恵みによって豊かな食文化で溢れています。それは街の飲み屋でも感じられ、旅先の暖簾をくぐる楽しさを一層満たしてくれます。

駅から徒歩10分ほどにある文化横丁は、この絶妙な距離がまたお酒を美味しくしてくれます。高鳴る鼓動をぐっと我慢し、暮れゆく街を歩くときがたまらなく好きです。

文化横丁、通称文横(ブンヨコ)と呼ばる飲み屋街。かつての闇市を起源としており、小さな飲み屋が約50軒、びっしりと密集しています。この中で「源氏」は、ひときわ特殊な店構え。横丁に看板はあれど店の暖簾はみつからず、なにやら細い路地裏が伸びています。

その先はカギ型になっていて、初めての人はここで合っているのか悩むはずです。曲がったさらに先にかかる縄のれんが入り口の目印です。

がらりと扉を開くと、そこはこれまでの奥行きに比べだいぶ小さくまとまって感じる20席ほどのコの字が現れます。常連さんが静かにお酒を楽しむ空間にそっと入れさせてもらい、女将の髙橋さんに軽く会釈。

カキ酢、ほうぼう刺身、ホヤ、のどぐろなど東北の海産物を中心とした魅力的な品書きが誘います。ですが、ここに品書きこそあるものの、料理は決めずにお酒を頼んでおけば間違いありません。

なぜかといいますと、「源氏」はお酒一杯ごとにお通しが用意されていて、杯を重ねるごとにおつまみが揃っていきます。そして、このお通しがどれも絶品揃いなんです。一杯目の肴は、開店時から育てられているぬか床でつくられた「源氏の逸品」です。いっしょに季節感あ小鉢がついてきます。

一杯目のお酒は、やはりナショナルビールから始めたい。ピルスナータイプはサントリー・ザ・モルツ、黒ビールはサッポロのヱビス プレミアム ブラックです。(ビールは1,000円お通しつき)

では乾杯!

二杯目は日本酒へ。高清水、國盛、浦霞など(およそ900円・お通しつき)で、初しぼりやにごり酒など季節ごとに顔ぶれは変わっていきます。

高清水の初しぼりを冷(常温)で。剣先コップとガラスの受け皿が、横丁の酒場らしく美しいです。二杯目のお通しはお豆腐。素朴こそ酒を引き立てる、美味しい冷奴です。

なお、寒くなると温かいお豆腐になります。また、燗つけ銅壺も創業時から使い続けている年季もので、寒い仙台に訪れて、源氏の燗酒を飲むと形容しがたい幸福を感じるものです。

三杯目は國盛のにごりを選びました。甘すぎず米のうまさがふくよかに広がる美味しい一杯。余韻の酸味が刺身と合いそうなので…

源氏で三杯目のおつまみはお刺身です。この日はしめ鯖、たこ昆布締め、ブリ、鯛が一切れずつ盛られたもの。ちょこちょことした内容ですが、これほどお酒を誘うおつまみはそうはありません。

濃厚な旨味とコクが誘うおいしさに、お酒が心地よく吸い込まれていきます。

お酒は四杯まで。最後の一杯は日本酒ではなく、あえて黒ビール「ヱビス プレミアム ブラック」を飲むのが好き。美味しいものをしっかり味わってきたあとに飲むヱビス黒はほっとします。

4杯までしか飲めないと言われても、4杯飲めれば十分と思うかもしれません。ですが、ここのお酒と肴の美味しさは、もっともっとと思ってしまうに違いありません。それを抑える黒はいいものです。

四杯目は椀物やおでん。今日はあさりのお味噌汁です。

「楽しい一時間だった。」お味噌汁をすすりながら、心の中でそんな独り言をつぶやきつつ、いつも満足してお会計です。

分厚い杉の木のカウンターと、女将さんの笑顔。なにもかも変わらないお店ですが、それを保ち続けていることって実は変えることよりも大変ではないでしょうか。

仙台の名店でいつもの満足が得られました。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

源氏
022-222-8485
宮城県仙台市青葉区一番町2-4-8
17:00~23:00(日祝定休)
予算3,500円