銀座「お多幸銀座八丁目店」 この街で一世紀、東京を代表するおでんで一献

銀座「お多幸銀座八丁目店」 この街で一世紀、東京を代表するおでんで一献

2016年12月22日

銀座・並木通りは言うまでもなく、最高の商店街です。国内外の有名ブランドの旗艦店が立ち並び、飲食店も伝統と品位を感じる名店ぞろいです。日常的なお店からハレの日に使う高級店まで、どんなお店でも「さすが銀座だね。」と感じさせてくれます。

筆者が普段使う飲み屋でいえば、大衆割烹三州屋や、最近移転してしまいましたが蕎麦の吉田、バーのブリックなどがあります。並木通り沿いに本社がある資生堂の宣伝制作室出身の太田和彦氏(デザイナー・居酒屋探訪家)のお気に入り「樽平」も大変素敵な酒場です。

さて、そんな並木通りにおいて、肌寒くなってきた頃合いにくぐりたい暖簾があります。「お多幸銀座八丁目店」です。銀座4丁目で大正12年に創業し、戦後現在の場所に店を移して60年以上の銀座を代表する銘店です。

土曜日は16時に口開けとなるのですが、これに合わせて飲みに行くのが好き。店内に漂う出汁と醤油の香りに包まれて、さらにおでん鍋から立ち昇る湯気によってほっといい感じ。乾燥した冬のぴりっとした銀座を歩いてからのこれがたまりません。

銀座はサッポロビールの前身、日本麦酒の設立の地。銀座ライオンがこの街に多いのは当たり前、なにより老舗の飲食店の多くはビールがサッポロなんです。並木通りに似合うビール、サッポロ黒ラベルで乾杯。

軽く冷やされたタンブラーに、星の肩に揃えた液と泡の境界。ビールの鮮度ばっちり、サーバーとグラスの洗浄も申し分ない極上の一杯です。ジョッキではなく、あえて435型タンブラーというのがかっこいい。

ビールはサッポロ、日本酒は菊正宗、変わらぬツートップ。

冬でも、「生ビールの中と、一人前ちょうだい」なんて具合に着席と同時に注文する身なりの良い紳士が多い。ビールをきゅっと飲んでから、「キクマサを燗付けて」なんて言えたら素敵です。

おでん以外のおつまみも充実しています。店の歴史や立地を考えると敷居がとても高く感じるのですが、一品料理はリーズナブルですし、イカフライなんてものもあります。

ここの串かつが実は結構いいもので、おでん屋で、しかもお多幸で串かつを食べるの?なんて顔をされながら、自慢げに食べるのは気分がいい(笑)

季節の食材は店の壁に貼られているので、おまかせの他にここから頼むのがオススメ。まずはつぶ貝と葱鮪をチョイス。葱鮪には気持ち山椒を振って。

一杯目のサッポロから、当たり前の流れとして燗酒へ。上撰のキクマサムネを昔ながらの湯煎で燗付けてもらい、これをちびちびと飲む。純米酒や吟醸酒、無濾過生原酒など今の日本酒ブームとは無関係、変わらぬ味、昔ながらの上撰キクマサ。酒場を愛する人には、ぜひ伝統の普通酒のお燗の美味しさを知ってもらいたいものです。おでんと上撰のお燗、おじさんたちは美味しいものを知っている。

大根、はんぺん、ちくわぶ。醤油色の出汁ですが、見た目ほどしょっぱくはない。関東風のおでんとよく言われますが、むしろお多幸こそがその原点となったお店と言ってもいいかもしれませんね。

しみしみの柔らかくなったちくわぶとお燗の組み合わせが好きで仕方がない。おでん種のほとんどは店で作っているものと聞きます。

昆布と鰹節に薄口醤油と砂糖でまとめられた出汁。中まで汁を吸い込んだ玉子、いか巻き、ふくろ、豆腐。家庭のおでんとの圧倒的なレベル差を感じられます。もうね、たまらないね(笑)

厚みのある白木の一枚板、並ぶ菊正宗の一升瓶、修行を重ねてカウンターに立つ職人さん。やっぱり銀座並木通りの店はいいものです。外の喧騒とは別世界、早い時間のお多幸でちびりと一献いかがでしょう。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

お多幸 銀座八丁目店
03-3571-0751
東京都中央区銀座8-6-19
17:00~24:30(土は16:00~・5月~8月は17:30~・日定休)
予算3,000円