神保町『揚子江菜館』明治創業 冷やし中華は“〆”じゃない!元祖の味は最高の酒肴だった

神保町『揚子江菜館』明治創業 冷やし中華は“〆”じゃない!元祖の味は最高の酒肴だった

本の街、神保町。出版社や古書店がひしめき合うこの界隈は、歴史ある中華料理の名店が多いことでも知られています。今回はその中でも別格の歴史を持つ一軒、『揚子江菜館』を訪ねました。ここは元祖「冷やし中華」が生まれた場所(諸説あります)。文豪たちも愛したという一皿で、歴史に思いを馳せながら杯を傾けたいと思います。

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留学生と物書きが育てた、神保町の百年中華

JR御茶ノ水駅や地下鉄神保町駅から徒歩数分。賑やかなすずらん通りに、1906年(明治39年)創業の『揚子江菜館』はあります。数メートル先には喫茶店「さぼうる」もあり、この一角だけ時が止まったかのよう。入口に掲げられた「創業明治三十九年」の額が、その長い歴史を静かに物語っています。

神保町・九段・駿河台に中華の名店が多い背景には、この街の特殊な成り立ちがあります。

日清戦争後、大学の多い神保町には近代化を学ぶ中国人留学生が集い、学生が中心の世界でも珍しい中華街が生まれました。

その流れの中で店を開いたのが『揚子江菜館』の創業者・周所橋氏です。彼が設立した「神田中華組合」が礎となり、この界隈に中華料理店が増えていきました。こうして中華は、蕎麦などの和食の名店と共に、作家や編集者に愛される「文士たちの食堂」として、神保町の文化に深く根付いていったのです。

店内は、どこか懐かしい落ち着いた雰囲気。有名な老舗ですが、親しみやすい笑顔の四代目・沈松偉(ちんしょうい)氏が迎えてくれるので、初めて一人で訪れても気兼ねなく過ごせます。

元祖の風格。肴にもなる冷やし中華

一階は気軽に使える食堂風のテーブル席。宴会用の部屋もありますが、一人でも気軽に使えるのがむしろ嬉しい。まずは生ビールをお願いしましょう。銘柄はキリンラガー。それでは乾杯!

元祖冷やし中華「五色涼拌麺(ごしょくりゃんばんめん)」:1,680円

看板メニューであり、日本の夏の食文化を変えた一皿が運ばれてきました。その美しい盛り付けは、二代目店主が店の窓から見える富士山の姿に感銘を受けて、昭和8年に考案したものだそう。

具材はしいたけ、海老なども含めて10品

高く盛られた麺は山体、頂で雲にかかる錦糸卵、そして麓を彩る具材は富士の四季を表しています。チャーシューは春の雪解けの山肌、きゅうりは夏の草木、煮たけのこは秋の紅葉や落ち葉、そして糸寒天は冬の雪。壮大な物語を感じる一皿です。

冷房のない時代、夏の客足の落ち込みに悩んだ二代目が、故郷上海の「涼拌麺」と日本の「ざる蕎麦」から着想を得て開発したとされています。

今では当たり前の甘酢だれも、200回以上の試作を重ねて完成させたそう。いま、コンビニでも売られている冷やし中華の甘酸っぱいタレは、実はここ神保町から広まったということになります。

まずは、雲に見立てた錦糸卵をそっと横にずらします。すると、山頂から顔を出すのは、うずらの卵と肉団子。これを肴にビールを飲むのが堪りません。食いしん坊の作家でおなじみ・池波正太郎も、こうして具材をつまみに日本酒を嗜み、締めに麺をすすったといいます。一つひとつの具材が丁寧に作られているからこそできる、贅沢な楽しみ方です。

麺は一般的な縮れ麺とは一線を画す、ストレートの玉子細麺。つるりとした喉越しがよく、それでいてタレがしっかりと絡みます。蕎麦のように時間が経ってもくっつきにくいので、自分のペースでじっくりとつまみ、そして〆の一杯として楽しめるのが素晴らしいです。

上海式肉焼きそば

冷やし中華と同じ、細い玉子麺を使っている上海式肉焼きそばも人気。2時間かけて下味をつけ、二度揚げすることで生まれるパリッとした食感が特長です。あんかけではない本場上海のスタイルで、麺そのものが主役であり、これでビールがぐんと進むんです。

伝統の味は、街の文化遺産

神田の老舗酒販店「藤田酒店」の女将さんは、幼少期、記念日の外食といえば揚子江菜館だったそうで、家族揃っておしゃれをして食べに行ったそう。千代田区で暮らす人、神保町で働く人なら誰もが知っている名店です。派手さはありませんが、一口食べれば誰もが納得する、明治から続く本物の味がここにあります。

若い方も少し背伸びして、ふらりと訪ねてみてはいかがでしょう。きっと、神保町という街がもっと好きになるはずです。

店舗詳細

品書き

点心のメニュー
〆のごはんものメニュー
  • 樽生キリンラガービール 640円
  • ハイボール 690円
  • 紹興酒ボトル 2,780円
  • 元祖冷やし中華 五色涼拌麺 1,680円
  • 上海式肉焼きそば(柔らかい・硬い) 1,380円
  • 五目焼きそば(柔らかい・硬い) 1,580円
店名揚子江菜館
住所東京都千代田区神田神保町1丁目11−3
営業時間11時30分~22時00分
創業1906年