冬になると恋しくなるのがフグ。本場・下関では福を呼ぶ「ふく」として愛されています。フグの魚河岸として知られ、通年観光客で賑わう下関・唐戸市場にやってきました。目的はもちろん、揚げたてのふく唐揚げを頬張り、活気のなかでビールを飲むこと!長年関係者にも親しまれてきた『市場食堂 よし』をご紹介します。
100年の歴史ある市場を見下ろす特等席

本州の最西端、下関。

関門海峡の激しい潮流が育んだ海の幸が集まるこの街の中心に「唐戸市場」はあります。その歴史は古く、大正13年に発足した唐戸魚市場がルーツ。

プロの料理人が真剣な眼差しで仕入れを行う卸売市場でありながら、週末には寿司イベントも開催され、多くの観光客で賑わう食のテーマパークのような側面も持ち合わせています。

活気あふれる1階の競り場や屋台エリアも魅力的。ですが、ノンベエの私が目指すのは2階。回廊を進んだ奥にある『市場食堂 よし』です。

市場関係者が長年通う、これぞ「市場の食堂」といった佇まい。観光化されたエリアとは一線を画す、業務用の雰囲気。

早朝から営業しており、仕事を終えた仲買人さんたちが朝食をとる場所でもあります。だから営業時間はお昼すぎまで。午前中がメインなのにお酒があるというのが、市場内の飲食店の特徴です。
揚げたて「ふく唐揚げ」と一番搾りで乾杯
さっそく暖簾をくぐり、席につきます。周囲を見渡せば、海鮮丼を食べる観光客に混じり、慣れた手付きで定食を平らげる常連さんの姿も。この雑多な雰囲気が、酒場好きの心をくすぐります。

注文したのは、店名を冠した看板メニュー「よし定食」。主役はなんといっても「ふくの唐揚げ」です。料理を待つ間、まずは生ビールで喉を潤します。銘柄はキリン一番搾り。市場の朝の空気の中で飲むビールは、なぜこれほどまでに美味しいのでしょう。

運ばれてきた定食には、揚げたてのふく唐揚げ(シロサバフグ)が3尾も盛られています。東京や大阪の専門店で食べれば数千円は下らないフグ料理ですが、ここでは定食で1,200円。

今の物価を考えれば、まるで普通のメンチカツ定食のような価格設定に驚かされます。

熱々の唐揚げを一口。サクッとした衣の中から、ふっくらとした白身が現れます。淡白ながらも噛むほどに溢れ出す旨味。そこにビールの苦味が重なり、至福の瞬間が訪れます。

下関では、高級なトラフグだけでなく、こうした唐揚げに適した「シロサバフグ」などが日常的に親しまれています。農林水産省の「うちの郷土料理」にも選定されているふくの唐揚げ。骨周りの身までしゃぶり尽くしたくなる美味しさです。刺身がついた「ふくふく定食」もありますが、揚げ物でビールを流し込むこのスタイルこそ、市場食堂飲みの正解かもしれません。
市場のあとは海辺でカップ酒を片手に

大満足で店を後にし、腹ごなしに市場の1階へ。ここでのお目当ては「ふく皮」、通称「てっぴ」です。

トラフグなどの皮を湯引きして細切りにしたもので、コラーゲンがたっぷり。外側の「鮫皮」、中間の「とおとうみ」、身に近い「身皮」と3層構造になっており、それぞれ異なる食感が楽しめます。市場ならではの価格で、ポン酢もついたパック詰めが千円以下で手に入るのも嬉しいポイント。

お土産用のてっぴを手に市場を出て、すぐ近くの商業施設「カモンワーフ」へ向かいます。ここにある酒屋さんで、地元の銘酒「長門峡」のカップ酒を購入しました。

海沿いのベンチに腰を下ろし、関門海峡を行き交う船を眺めながら、てっぴを肴に地酒をちびり。ふとテーブルの先にある案内板に目をやると、なんとここは「聖フランシスコ・ザビエル下関上陸の地」とのこと。歴史のロマンと潮風を感じながらのひとり酒。誰に気兼ねすることなく、自分のペースで街と食を楽しむ。これだから旅はやめられません。
| 店名 | 市場食堂よし |
| 住所 | 山口県下関市唐戸町5−50 |
| 営業時間 | 平日 6時00分~13時00分 日祝 8時00分~14時00分 火・水・休市日休み |
| 予算 | 2,000円 |
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