食堂飲みを愛する方々にぜひとも足を運んでほしいお店があります。山口県下関市、海峡の街の大衆食堂「一善」です。
JR下関駅前で、なんと朝9時から深夜23時まで通しで営業。高松や青森、函館など、古くから海峡の港湾都市として栄えた街には、必ずこういう食堂が存在します。
かつては関門海峡を渡る人々で賑わった下関。現在は道路交通、鉄道ともに難なく本州と九州を結び下関は通過されがちですが、街にはかつての栄光の余韻があり、さらには小倉を中心とした北九州都市圏と一体化して、新たな発展もみせています。
一善は、連絡船や汽車の乗り換えに、そして下関港から各地へ旅立つ前の旅行者で賑わった中心街にあり、現在も近隣の働く人々や、ご隠居さんたちが時間に関係なく集い、酒盛りを楽しんでいます。
夜になれば〆飯と軽く一献を楽しむ人で賑わいます。難しく酒場を探すよりは、むしろ一善があればそれで十分満足できるはず。
深夜の下関で飲み続けた翌朝。ホテルで朝食を食べずに、そのまま一善へ。「ちゃんぽん」や「貝汁」と書かれた暖簾に個性を感じつつ店に入ると、コの字カウンターにずらりと並ぶおかずが飛び込んできます。冷蔵庫には地もののカンパチなどのお刺身も揃います。
食堂はこうしておかずが並ぶお店は多々ありますが、ここは港町。カレイ、太刀魚やマナガツオなど、個性豊かな魚介類の名が朝から飲み欲をかきたてます。
九州文化圏に近いことを感じる皿うどんやちゃんぽんを筆頭に、うどん、そばと麺ものから、カレーライスやカツ丼までがっつり系も充実。ごぼ天などが浮かぶおでんは、福岡うどんのような薄口。
今日の朝ごはんはこちら。メインは280円の鮭の塩焼き、小鉢から冷やしトマトを選び、一善名物の汁から貝をチョイス。冷蔵庫に並ぶスーパードライは中びんと大びんの2種類。生ビールはありませんが、どの時間帯でも誰かが飲んでいるとか。
貝汁、豚汁、肉汁、くじら汁と4種類もある味噌汁。朝なので貝汁でシンプルにいただきます。丼ぶりサイズのお椀は受け皿に載って登場。貝のコクが漂い、香りだけでビールが進みます。
あっさり白味噌に、山ほどはいるアサリからでた旨味が染み込み、舌の上を心地よく過ぎていきます。身の肉厚でジューシー、なかなか東京でこんなあさり汁には出会えません。これで300円なのですから、近所にあれば毎朝飲みに行きたいものです。
気になるくじら汁ですが、下関はくじら漁の街だった歴史があり、現在でも調査捕鯨の拠点となっていて、伝統的に鯨を食べます。豚汁の豚の代わりに鯨をつかっているもので、こちらも是非食べておきたい逸品です。
焼き魚、煮魚は作り置きで並んでいますが、食べる前に加熱してくれるのでほくほくに。濃い口の味にビールから日本酒・白鶴へ切り替えたくなります。
カウンターは10席ほど。ジャンパー姿のお父さんたちが、明け番の開放感に浸りながら朝酒中。後ろのテーブルでは奥さま方が、列車に乗る前に朝ごはんを食べていらっしゃるご様子。
明るく元気なベテランお姉さんたちの軽やかな接客もあり、とても清々しい雰囲気です。
何十年も続く老舗ですが、隅々まで手入れがされていて、万人におすすめしたい昭和の大衆食堂「一善」。皆さんも、海峡の街の食堂に浸りませんか。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
一善
083-232-4082
山口県下関市竹崎町1-15-30
9:00~23:00(火定休)
予算1,500円