知れば知るほど面白い!「有史以前の酒造り」の話『再現!古代ビールの考古学』

知れば知るほど面白い!「有史以前の酒造り」の話『再現!古代ビールの考古学』

2024年6月6日

普段飲んでいる定番のお酒にも、始まりはある

(タイアップ:築地書館)

当サイト「Syupo」や筆者・塩見なゆの日々の発信をご覧の皆さんは、99.99%お酒好きだと思います。きっと、家族や友人、職場では「お酒や居酒屋に詳しい人」と思われているはずです。

ただ酔っ払うだけというよりは、酒や酒にまつわる世界観が好きという方は多いのではないでしょうか。キリンの生ビール(非加熱処理)は、「一番搾り」(1990年発売)より「ハートランド」(1986年発売)のほうが先という話だったり、現存する日本最古のビール銘柄は「サッポロラガービール」だったり、身近なお酒の歴史に興味を向けるのはおもしろいと思います。

普段飲んでいるビールにも歴史あり

現存する東京最古の居酒屋は、千代田区神田神保町にある「みますや」で、日本最古の酒蔵は茨城県笠間市にある「須藤本家(平安時代・1141年)」だという話を聞けば、一度訪ねてみたくなるに違いありません。

東京最古の居酒屋「みますや」

世界に目を向けてみれば、世界最古のウイスキー蒸留所はイギリス領北アイルランド・アントリム州にあるブッシュミルズ蒸溜所(1608年)であり、現存する世界最古の記録が残るワイナリーは、ドイツ・フランクフルトにほど近いライン川沿いにある「シュロス・フォルラーツ(1211年のインボイスがある)」であるなど、お酒の歴史には知識欲を満たす話はたくさんあります。

上記はあくまでも現在も飲める酒や酒造の話であり、お酒の歴史はもっと深いのは言うまでもありません。酒と人類はきっても切れない関係にあり、有史以前から、人の暮らしに寄り添ってきた飲み物です。

アルメニアで6100年前のワイン醸造所が発掘され、これが世界最古のワイナリーであるとカリフォルニア大学の考古学者・グレゴリー・アレシャン氏が発表し、ナショナルジオグラフィックなどが報じました。

お酒を知るとたどり着くのは考古学

最近はマインクラフトやドラクエビルダーズ、その他多くの歴史体験ゲームなどで、土と木から、青銅、そして鉄器へと進歩すると格段に暮らしが豊かになることを実感したゲーム好きは多いと思いますが、同様に酒も進化してきました。その当時のお酒は、どんな製法で、どんな味だったのか、気になったことはないでしょうか。

少なくとも私・塩見なゆは興味があります。

中国の賈湖(ジアフー)遺跡から発掘された約9000年前・新石器時代の土器に残されていた、現在見つかっている世界最古のアルコール飲料は、どんなお酒だったのか。

世界最古の鉄器が発掘されたトルコの鉄器時代に飲まれていたお酒は、やっぱり鉄くさかったのか。

ワインが広まる前のヨーロッパ大陸ではどんなお酒が飲まれていたのか。世界最古のビールのレシピはどんなものだったのか。

そして、それらと合わせて食べられてきた「酒の肴」は何だったのか。古代のペアリングを知ると、今夜のおつまみのヒントが見つかるかも?

もはや、化学・醸造学というより、考古学のカテゴリーです。

私達が日常的に飲んでいるお酒につながる、遥か古代に飲まれていた飲み物について、お酒好きだからこそ知りたいと思いませんか。

呑兵衛のインディー・ジョーンズがいたら、悠久の酒の歴史を掘り起こしてくれるかも知れない。

と思っていたら、そんな人が実在していました。

ペンシルバニア大学の考古生化学者パトリック・E・マクガヴァン氏です。(Wikipedia英語版

遺跡→研究室→醸造所→厨房→乾杯!?

マクガヴァン博士は、中国賈湖(ジアフー)遺跡をはじめ世界各地の遺跡から、酒造りの残渣を発掘し、これをフーリエ変換赤外分光法などの化学分析を駆使し、当時のレシピを導き出しています。

さらに、アメリカのデラウェア州を代表するブリュワリー「ドッグフィッシュ ヘッド クラフト ブリュワリー」のヘッドブリュワー・サム・カラジョーネ(Sam Calagione)氏とともに古代のアルコール飲料を蘇らせ、極めつけはペアリングの料理までを再現しているのです。もちろん、食べて飲んだ話も書かれており、非常に興味深いです。

考古学は博物館や世界遺産、ネイチャーやナショジオで見たり読んだりする遠い世界の話だと思っていたら、なんと現代の酒とつまみという身近な場所に降りてきました。

酒造りの冒険を追体験できる本

そんなファンタジーのようで、実際に行われた酒造りの考古学兼世界で酔っ払う話が書かれた本が『再現!古代ビールの考古学』パトリック・E・マクガヴァン[著] きはらちあき[訳](築地書館)です。

公式サイト

酒造企業や酒問屋、酒販店、ソムリエやバーテンダー、居酒屋などお酒に関わる仕事をされている方は読んでおいて損のない、超濃厚な内容で、どんなにこの業界に詳しい人でも新しい知識と発見がある本だと思います。

もちろん、お酒好きの方にこそ読んでいただきたい一冊です。

352ページにぎゅうぎゅうに酒の話が詰まっています。読むのに時間がかりますが、冒険譚風になっていますし、地図やレシピ、白亜紀から始まる酒の年表などが散りばめられているので、楽しく読み進められると思います。

古代の酒を頑張れば家庭でも再現できるレシピが掲載されていますが、日本国内で勝手に酒造りをすると酒税法違反になりますので、読んで妄想するまでにしておきます。

2024年6月4日発売

再現! 古代ビールの考古学: 化学×考古学×現代クラフトビールが醸しだす世界古代ビールを辿る旅 単行本

全国の書店、Amazonなどで販売されています。

【主な目次】
はしがき サム・カラジョーネ
序章
1章 超絶発酵アルコール飲料の聖杯
2章 ミダス・タッチ 中東の王にふさわしきエリクサー(神秘の妙薬)
3章 シャトー・ジアフー(賈湖城) 中国でずっと酔いしれていたい新石器時代ビール
4章 タ・ヘンケット 陽気なアフリカの祖先にぴったりなハーブ炸裂ビール
5章 エトルスカ ワイン来襲前のヨーロッパに「グロッグ」ありき
6章 クヴァシル 凍える夜に沁(し)みる熱き北欧グロッグ
7章 テオブロマ ロマンスをかきたてる甘いブレンド
8章 チチャ ひたすら噛んで手に入れる栄光のコーン・ビール
9章 お次は? 新世界のカクテルなどいかが?
訳者あとがき
酒にまつわる年表
図版リスト
参考文献
索引