『さくら水産』はこう変わった!鮮魚に力を注ぎ専門店化。市場関係者も利用する酒場に大変身

『さくら水産』はこう変わった!鮮魚に力を注ぎ専門店化。市場関係者も利用する酒場に大変身

過去3年間、外食チェーン業界にとっては未曾有の困難な時期が続いてきました。多くの飲食店が閉鎖や業態変更を余儀なくされ、特にチェーン居酒屋は大きな影響を受け、業態、メニュー、そして価格設定まで大幅に変化しました。

過去に「安く飲むなら”さくすい”」として親しまれた『さくら水産』も例外ではありません。現在の『さくら水産』は、かつての「安さ重視」から「鮮魚の品質重視」に変わっています。その背後には、テラケン(さくら水産の運営会社)で働く社員が長年にわたり培ってきた経験を活かし、新たな挑戦に取り組む熱意がありました。

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さくら水産は豊洲市場と直結している

とある日、サッポロビール銀座オフィスの会議室で、「なゆさん、さくら水産がここ数年で大幅にパワーアップしているんですよ」という話を聞いたことがすべての始まり。

いま、私は早朝の豊洲市場にいます。世界最大級の魚河岸です。築地から移転今年で開業5年になります。

なぜ『さくら水産』の取材なのに豊洲市場に来たかというと、現在のさくら水産の”コア”な部分が、ここ豊洲にあるからです。

早朝にも関わらず同行してくれたサッポロビールの担当者さんとともに、『さくら水産』のこだわりを見せていただくことになりました。

もともとさくら水産は、銚子港からの直送によって安さを実現していたそうです。その後、店舗数を増やすにあたり東京中央卸売市場 築地市場(当時)からの仕入れを本格化し、以来、市場の水産仲卸との関係を築いてきました。

まず紹介いただいたのは、マグロに強い仲卸さん。それにしても、立派なマグロですね!東京の魚介系居酒屋ならマグロが刺身の王様です。

つぎにやってきたのは、多くの魚種を揃える仲卸さん。スペースの一画に『さくら水産』向けの荷造り場があり、仕入れた魚はそのまま、『さくら水産』各店向けの発泡スチロールに仕分けされていきます。

取扱品目はある程度決まってはいるものの、直接仲卸さんから話を聞くことで仕入れ量を変えたり、予定にはなかった魚も仕入れたりもするそうです。「山治」の社長、山﨑康弘さんとちょうど商談中。

「さくら水産さんが消費者の声をフィードバックしてくれるため、社員たちのモチベーション向上につながっています」と山﨑さん。

チェーン居酒屋の購買部門はビジネスライクで、PC画面越しに数字をいじっているだけかと思われる方は多いと思います。『さくら水産』の鮮魚はかなりアナログで、挨拶からはじまる人と人の付き合いが大切なようです。

これは立派な牡蠣ですね。仕入れる予定はなかったようですが、仕入れ担当さんは気になったようです。

その場で開いてみて中を確認。よくつまっています。すぐにスマートフォンで記録して、仕入れが決まりました。この中の1個が、今夜の私のおつまみになりそうです。

箱にかかれた緑の文字は、『さくら水産』各店の店名です。


漁港から冷蔵車や生け簀トラックで豊洲へ運ばれた魚は、真夜中、建物全体が冷蔵庫のような豊洲市場水産卸売棟の荷受(卸)に届きます。山﨑さんはじめ多くの仲卸さんがセリ落とし、そのままターレーで豊洲市場内の地下道を通って仲卸棟へ運ばれ、その日に仕入れ担当さんが来て仕分け。お昼頃には各店に届く。


魚が届くまで多くの目利きが介在していますが、タイムロスのないスムーズなリレーが行われていることに改めて感動します。

立派な真鯛をみつけてご満悦。それでは、次の仲卸へ行きましょう。

早朝の買付は、仕入れ担当者にとっては毎日のルーチン。すれ違う顔なじみに挨拶しながら、早足で場内を巡ります。つぎにやってきたのはずらりと「さくら」と書かれた発泡スチロールが並ぶ仲卸「東京鈴木屋」。

こちらの仲卸さんも魚種が豊富です。しかも取扱量が多い!

サンマとアカムツ(ノドグロ)が良さそう。ハリがあってプリプリですね!

かつての『さくら水産』は徹底的な安さ勝負だったため、こうした魚を仕入れる機会は少なかったのだそうです。しかし、価格競争が激化し、さらにはパンデミックといった逆風に直面し、新たな展開が求められました。

そうして考えられたのが、市場の仲卸業者からの協力を得て「水産」を冠した名に恥じない商品を提供することだったのです。

せっかく仲卸との関係が深いのだから、もっとお客さんに喜んでもらえる魚種を揃えたい。そうした想いが、いまの『さくら水産』の姿になっています。

仕入れた魚は、各店の立地による客層の違いにあわせて振り分けられていきます。ある程度店舗数があるので、豪快に仕入れた魚も、店舗へは少量ずつ送り込むことができるようです。

仲卸の方も一緒に振り分けています。これはランチ営業のアジフライ定食用の鯵。豊洲直送を謳う店はたくさんありますが、市場でこうした作業が行われていることまで想像することはあまりないかもしれません。魚のプロばかりが集まる場所、その仕事の速さと真剣さにただただ感動しています。

これ食べたい!水族館の魚を生け簀を見るように眺めていた私は、取材そっちのけで魚に夢中です。

パッケージ終了です。ターレーに載せられて、その先にある冷蔵トラックへとリレーされます。さあ、いってらっしゃい!

3時間後の『さくら水産 東銀座店』

市場で魚を見送って3時間後、時刻は11時。生魚と同じ温度で取材していた私の体は、やっとほぐれてきました。魚が店舗へ届いたそうなので、早速お店へ。

ここは、豊洲市場から最も近い『さくら水産』である東銀座店です。取材で伺った豊洲市場仲卸の皆さんも御用達の店舗。市場の皆さんは、自分たちで詰め込む瞬間まで見届けているのですから信用できますもんね!

「山治」でみていた牡蠣(青いビニール)がありますし、「東京鈴木屋」の厚岸サンマもそのままです。市場でみたそのものが店にある。当たり前のことですが感動します。

※撮影用に特別に開けてもらいました。撮影後はすぐに適切な環境で冷温保管しています。

食べたいと仲卸の売り場で眺めていた活サザエ。いつの間に仕入れていたのですか。元気にゴツゴツと動いています。

品書き

料理

市場の仕入れ次第で変わる品書き。「本日の厳選」の文字に偽りなし。

さんまの姿造なめろう(650円)、陸奥湾の極上ののどぐろ炙り刺身(760円)、岩牡蠣(980円)、生きはだまぐろ刺身(430円)など。市場の推しを写した鏡のようですね。

定番メニューも魚推し。かつてのさくら水産のイメージに浮かぶ魚肉ソーセージをはじめとした強烈安価なメニューはありません。だって、あれだけ気合を入れて市場で仕入れているのですから。とはいえ、活あわびが540円など良心価格だと思います。

〆には握り寿司・八丈島名物島寿司(各830円)を持ってくるなど、全体をみてもサイドメニューの一部以外はほぼ魚介類です。

お酒

  • サッポロ生ビール黒ラベル:中ジョッキ600円
  • 瓶ビール サッポロ黒ラベル大瓶:800円
  • 瓶ビール サッポロラガー(赤星)中瓶:650円
  • 酎ハイ:320円
  • 昔懐かしすももサワー:400円
  • ジャスミン茶割り:400円
  • デュワーズハイボール:350円
  • 日本酒 黄桜:350円~

身近な場所で楽しむ豊洲の魚

サッポロ生ビール黒ラベル(600円)

朝から取材に同行いただいたサッポロビールの担当さんと一緒に、乾杯をもっとおいしく

青森陸奥湾産 極上のどぐろ炙り刺身(760円)

陸奥湾ののどぐろです。現地まで行くか高級店でしか食べられなかった魚も、物流や市場、飲食店の努力でこうして日常使いの酒場で楽しめる。いい時代になりました。

『さくら水産』は各店に板前さんがいます。徹底的な合理化で安さと好立地、大箱を維持するのがチェーン店ですが、美味しさを考えれば店で捌くほうがいいですよね。

手際よく三枚にして、さっと炙り出来上がり。

豊洲市場から追いかけてきたのどぐろがついに食卓に上がりました。ハリ・ツヤがよく輝いていたのどぐろ。塩をちょっとつけて頂きました。うん!脂がのっています。

北海道特選品新さんま姿造なめろう(650円)

取材時はまだ走りだったサンマ。なめろうでいただきます!落ち着いたボックス席で、のどぐろや新サンマ気軽に楽しめる。こういうお店、最近は貴重かもしれません。

岩牡蠣ポン酢(980円)

スペシャルメニュー!市場で開いて身の詰まり具合まで確認していた、手のひらサイズを越える巨大な牡蠣。身もパンパンにつまっています。

活さざえ(540円)

定番メニューにも入っている活サザエ。仲卸の山治に並んでいたものですね。つぼ焼き限定かと思いきや、刺身でもいけるとのこと。久しぶりです、サザエの刺身。コリッコリ!これは日本酒が欲しくなります。

店のブランディングこそ尖っていませんが、居心地と品揃えはかなりバランスがよくお得感があると思います。

地酒 紀土純米酒

定番の日本酒は京都伏見の黄桜。それだけでなく、各種地酒も揃っています。選んだのは和歌山海南・平和酒造の「紀土」純米酒。

大特価 初荷 自家製あん肝ポン酢(430円)

「初荷のあん肝がすごくイイ!これ、絶対食べて!」と仕入れ担当さんが興奮気味に買っていたあん肝。

店に届いてすぐに仕込み、いまここにあります。移動距離はあれど、市場脇の鮮魚食堂と変わらない”ノリ”じゃないですか。濃厚で美味しい!

おまかせにぎり5貫盛り(830円)

〆には、おまかせにぎり5貫盛りをいただきました。生まぐろや鯛など豪華な内容です。

ごちそうさま

市場直結で、高級魚を日常的な酒場の価格で提供する。

単純な安さではなく、適正価格でいいものを届けようという姿勢は、かつての『さくら水産』のイメージを払拭するには十分でした。

刺身にも使える新鮮な丸魚の鯵をつかったランチタイムの”生”あじフライ定食(税込1,000円)を今度は食べに来ようと思います。

さくら水産公式サイトより

そういえば、さくら水産のロゴも新しくなったのですね。今後の変化が楽しみな海鮮チェーン居酒屋です。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/株式会社テラケン・サッポロビール株式会社)

店名さくら水産 東銀座店
住所東京都中央区銀座5-15-18 銀座東新ビルB1
営業時間営業時間
[月~金]
11:00~14:00
16:00~21:00(L.O.20:30)
定休日
土曜日、日曜日、祝日
公式サイトホームページ HOT PEPPER(WEB予約)
取材した店舗