江戸時代の天守閣が現存する松江城の城下町には、80年近くも続く居酒屋『有楽』があります。島根の食材を使った刺身やフライ、自家製味噌をつけるおでんが名物です。特徴的な弧を描くカウンターには、3代目女将と大将が立ち、地元の方々と一緒に和気あいあいとした時間を過ごしています。
道の拡幅も乗り越えて
島根県の県庁所在地である松江は、国宝の松江城を中心に堀川や宍道湖が入り組んだ水の都です。この街は細い道が入り組み、歴史ある建物が連なる趣のある町並みが特徴です。飲食店も多くの老舗が存在し、代々受け継がれてきた伝統の料理を味わうことができます。
外観
さて、松江で最も古い居酒屋と言えば、おそらく殿町に位置する『有楽』ではないでしょうか。創業は戦後まもない1947年(昭和22年)。松江城の大手門のすぐ近くにあり、松江県庁からもわずか100メートルほどの中心地に佇んでいます。
しかし、中心地に位置するということで、道路の拡幅により営業の継続が難しくなったこともあったそうです。建物を後退することで解決し、現在も『有楽』は営業を続けています。
内観
暖簾をくぐると、3代目の女将が笑顔で迎えてくれました。
コンパクトなお店です。おでん鍋と酒燗器を中央に配置し、弧を描いたカウンターで囲んだ特徴的なつくり。全員の顔がみえるから一体感があります。お店の人やお客さん同士の距離が近く、すぐに会話が始まります。地元言葉に包まれるこのひとときが、旅の醍醐味。
地元の方がほとんどですが、噂を聞きつけ、遠方から飲みに来る居酒屋好きも多いのだと大将。
品書き
お酒
- 樽生ビール アサヒスーパードライ
- 李白酒造(松江)李白 純米酒
- 米田酒造(松江)豊の秋 純米 辛口金五郎
- 奥出雲酒造(奥出雲町)仁多米 純米酒
- 簸上清酒(奥出雲町)七冠馬 純米酒
- 吉田酒造(安来)月山 純米酒
- 旭日酒造(出雲市)十旭日 純米酒
- 玉櫻酒造(邑智郡邑南町原村)玉櫻 純米酒
- 酒持田本店(平田町)ヤマサン 純米酒
- 池月酒造(邑南町)池月 純米酒
- 若林酒造(大田)開春 純米酒
- 日本海酒造(浜田)環日本海 純米酒
- 隠岐酒造(隠岐の島)隠岐誉 純米酒
黒板メニュー
- 刺身(さわら・はまち・タカノハダイ・いか・バトウ・あじ・さば):600~800円
- 焼魚(笹鰈・いわし丸干し・塩さば・かま塩焼)・飛魚フライ:600~800円
定番メニュー
- [人気]厚揚げ焼き
- [人気]玉子焼
- [人気]にら玉
- [人気]にんにくの芽
- [人気]赤てん(練りもの揚げ)
- アジフライ
- いわしフライ
- カキフライ
- コロッケ
(どの料理も600~700円)
おでん
- ひら天
- ちくわ
- すじ
- さかな団子
- とり団子
- とうふバーグ
- ゆば巻
- さと芋
※メニューは抜粋して紹介
自家製の季節味噌が味の決め手
樽生アサヒスーパードライ
地元の純米酒にこだわり、大都市ではあまり見かけることのない銘柄まで揃えている『有楽』。ご当地のお酒が一番の楽しみですが、その前に、まずは生ビールで喉を整えます。アサヒスーパードライで乾杯!
おでん
通年おでんを出す店で、まずは皆さんおでん種をいくつか選び、それから始めています。山陰は練りもの名産地ですし、やはり「ひら天」「ごぼ天」あたりは外せません。おでん鍋にさっと潜らせるだけなのに、驚くほど出汁を吸って美味しくなる春菊も絶品です。
全国津々浦々、おでんの老舗は数あれど、『有楽』のように季節に合わせた自家製味噌を用意している店を私は知りません。春はふき味噌、夏は山椒味噌、冬はゆず味噌など、旬に応じて自家製味噌が用意され、ご自由にどうぞと容器ごとやってきます。
季節の味噌を軽く塗りつけて食べると、その絶妙な個性ある味が、ぐいぐいとお酒を呼び寄せます。
十旭日 純米 お燗酒
おでん鍋の横にはレトロなガス式の酒燗器があり、皆さんおでんにあわせて次々とお酒を頼んでは、酒燗器でぬる燗、上燗などに温めてもらっています。
タイミングを見て、私も一本。きれいな白磁の徳利ででてきましたので、自由に選べる猪口の中から白い平盃を選び、そのままの流れで、”トトトッ”注ぎました。十旭日(じゅうじあさひ)は様々なタイプがありますが、これはまた随分、厚みのあるどっしりとしたお酒。味噌をつけたおでんに並ぶ力強い味わいです。
にら玉
地元島根の地魚料理が揃っていますが、地元にお住まいの常連さんは、にんにくの芽やコロッケ、そしてにら玉などの「居酒屋料理」を注文されています。お隣の同年代のご夫婦にオススメされ「にら玉」を頼みましたが、なるほど、たしかに特別な味です。
料理、お酒、そして人がよいので時間が経過するのはあっという間。そろそろ”カンバン”のようですので、お会計を。
ごちそうさま
居酒屋がお好きな方ならば、きっとリピートしたくなるほど気に入ると思います。営業曜日は火曜日、金曜日の2日間だけですので、タイミングを合わせてどうぞ。一人・二人程度の少人数で、事前に予約してから飲みに行くことをオススメします。
二軒目の候補
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 有楽 |
住所 | 島根県松江市殿町352 |
営業時間 | 営業時間 17:00~21:00 定休日 月曜日、水曜日、木曜日、土曜日、日曜日 |
創業時期 | 1947年 |