一回目の東京オリンピックが開催された年に創業した南千住の『鶯酒場』。店名について、現大将によれば創業者が鶯好きだったことが由来だそう。駅前再開発でビルの地階へ移転するも、足立市場等から仕入れるマグロ刺しと幻の酒・ホイスが変わらない名物です。
目次
景色は変われど、かわらないものもある南千住
南千住駅の開業はかなり古く、日本で初めて鉄道が開通した24年後の1896年には開業しています。
ここで水運・隅田川が東北方面に伸びる鉄道と交差することから、南千住は交通・物流のハブとして東京の発展を支えることになります。現在も駅の東側は広大な物流施設が稼働し、北海道や東北からの農作物などが運ばれてきます。そうした立地から、南千住には鐘淵紡績や大日本紡績といった大規模な工場が建設され、工場や駅で働く労働者向けの酒場が駅前に次々と誕生したのでした。
その後、紡績工場は移転され跡地はマンション群として再開発が進み、南千住駅前の飲み屋街も高層マンションを中心とした新しい街に姿を変えました。交通の便がよい新たな住宅街としてスタートをきった南千住ですが、よく見てみれば寺やガード下の脇にこの街が辿ってきた歴史が残っています。
再開発されたビルの地階にも、そんな南千住の歴史を今に伝える酒場が存在します。それが今回ご紹介する『うぐいす酒場』。チェーン店が入るビル内なので分かりづらいかもしれませんが、れっきとした老舗の大衆酒場です。
再開発前の2007年までは『大衆鶯酒場』を大きく掲げたどっしりとした酒場でしたが、仮設店舗時代を経て2012年に現在のアクレステイ南千住の地階へと収まりました。
建物は新しく、外観は暖簾以外は新店のような雰囲気ではあるものの、店内は「あぁ、歴史を感じる酒場だ」ときっと感じるはずです。
大将を中心にぐるりと囲むコの字カウンターが配されただけの構造です。ただ、カウンター席だけでなく、一辺だけはファミリー層向けの回転寿司チェーンのようなボックス席となっています。
壁には、店名にもなっている鶯の画が飾られていました。相当古いものだそう。
品書き
お酒の部
樽生ビール(アサヒスーパードライ):550円、瓶ビール大瓶(アサヒスーパードライ):550円、瓶ビール小瓶(キリンラガー):350円。
看板ドリンクは、東京うまれの甲類焼酎用シロップ「ホイス」をつかったホイスハイボール:350円。酎ハイ・レモンハイ:300円。日本酒二級酒は大関正一合:270円。
肴の部(定番料理)
まぐろぶつ:380円、まぐろ納豆:450円、しめさば:420円、いかさし:500円、くじらベーコン:680円、煮込み:320円、串カツ;320円、アジフライ:450円、エビフライ:460円など。
本日のおすすめなど
銀鮭:450円、ぶり照焼:600円、たいとサーモンのカルパッチョ:800円、肉豆腐(牛):570円、ゆどうふ:450円、肉しゅうまい:480円、みょうがおひたし:350円、茄子とトマトのチーズグラタン:450円、シーフードピザ:650円など。
バリエーション豊富な料理に、ホイスはよく合う
ホイスハイボール(350円)
酎ハイをウイスキーハイボール風に変えた魔法のエキス、ホイス。
登場はまだ洋酒が貴重だった1949年(昭和24年)です。下町の割材のようにも思えますが、製造企業の後藤商店は港区・白金にあります。小さな企業で生産量が限られているため、一部の飲食店でしか飲むことができません。そのため「幻の酒」と一部で呼ばれるようになりました。
クセがあるようで、すっきりしている。甘さはなく、なんとなく柑橘系の香り。不思議な飲み物ですがあと引く美味しさです。うぐいす酒場は何十年と扱ってきたホイスを看板ドリンクにした店で、常連さんの多くがホイスハイボール(350円)を注文します。ちなみにウイスキーハイボールは250円なので、いまではホイスのほうが高級です。
肉豆腐 牛(570円)
ホイスは幅広くどんな料理にも合いそうなお酒です。ピザやグラタンなどチーズ料理もあるうぐいす酒場にはぴったり。でも、ここで一番相性が良いのは醤油とみりん系の味の料理ではないかと思います。
ということで肉豆腐をあわせています。注文をうけてから小鍋で調理をはじめ、出来上がったらまだグツグツとした状態で供されます。牛肉に春菊、ネギ、焼き豆腐と、いわば一人用すき焼きといったところ。
酒二級酒(270円)
日本酒は大関です。昔ながらのビンごと湯煎で燗がつけられるタイプ。もっともポピュラーな上撰 大関金冠は飲み飽きない美味しさ。
ポテトサラダ(380円)
自家製のきゅうりたっぷりのポテトサラダは、黒胡椒がアクセント。派手さはなくとも、しみじみ美味しいポテトサラダです。
瓶ビール小瓶(350円)
樽生、大瓶はアサヒスーパードライで、小瓶はキリンラガーという品揃えも昔からです。ホイスハイボールをメインで数杯頂いたあとですから、ビールは小瓶にしました。
職人気質ですがとても親切な大将なので、最初は緊張することはあっても飲んでいるうちにきっとコの字のカウンターに居心地の良さを感じると思います。
ごちそうさま。
近くの酒場
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | うぐいす酒場(鶯酒場) |
住所 | 東京都荒川区南千住7-1-1 アクレステイ南千住 MBF |
営業時間 | 16:30~22:00(日定休・土もしくは月で不定休あり) |
開業年 | 1964年 |