市場内の食堂や寿し店は、あまり知られていない朝・昼酒スポット。今回は、高知市中央卸売市場内にある『幸寿し』を訪ねます。職人歴半世紀になる大将が握る高知の魚を使ったお寿司を、キリンラガーとあわせて良心価格で楽しませてくれます。
目次
朝の高知、路面電車に乗って――
高知で市場といえば、観光客に人気の「ひろめ市場」が有名です。市場と言っても、飲食店とお土産物店が中心です。それでは、プロはどこで食材を仕入れているかというと、高知港につき出した埠頭のような島・弘化台にある高知市中央卸売市場です。
高知駅からは約4km離れており、とさでん交通の路面電車が路線バスでアクセスすることになります。高知市内に宿泊した翌日は、町並みをゆったり眺める公共交通に乗って、市場の遅い朝食とビールを楽しみに行きませんか。
市場の近くまでやってくると、高知港越しに高知市中心街が一望できます。空が広く、潮の香りが心地いい。さあ、お酒が飲みたくなってきました。
高知市中央卸売市場
高知市中央卸売市場の正門。開市日は、一般的な市場カレンダーと同様です。原則、水曜日・日曜日が休み。開市日は市場関係者でなくても、食事等の目的で入場可能です。
開設は1930年(昭和5年)。高知市の情報によれば、京都市場に次いで二番目に長い歴史を持つ市場とのこと。日本有数の水揚げ量を誇る高知ですから、主に水産市場として設置され、その後青果等も加わったそうです。
建屋の向こう側には岸壁が見えます。港に突き出した構造で、接岸した漁船から直接市場への搬入が行われています。水揚げ直後の魚介類はすぐにセリにかけられ、昼には高知の飲食店に届く。高知で食べる魚が美味しい理由のひとつがここにあります。
市場内には関係者向けにいくつか飲食店が入っています。
水揚げ、セリ、提供が数百メートル以内の店「幸寿し」
外観
市場の岸壁から船舶で運び込まれた魚は、県下の各港から届く鮮魚とともにセリにかけられ、各飲食店や鮮魚店等に運ばれていきます。ですが、市場内にある「幸寿し」は、水揚げ、セリ、提供までがわずかな距離しか離れていません。この素晴らしい地の利を活かした寿し、ぜひ食べてみたい!
内観
ご夫婦で切り盛りされていて、あったかい家庭的な雰囲気です。公設の市場内施設ですから観光客向けの装飾などは皆無。むしろそれが特別感があっていいものです。
うなぎの寝床のように奥へ伸びたカウンター席が板場に向き、その先にテーブル席という配置です。お客さんは皆さん長靴やジャンパー姿で常連さんばかりのよう。
乾杯はキリンクラッシックラガーで
働く人の食堂という場所柄お酒を飲む人は少なそうですが、もちろん取り扱いがあります。銘柄はキリンクラッシックラガー。「たっすいがは、いかん!」のビールです。それでは乾杯!
品書き
にぎり1人前:950円、にぎり1.5人前:1,400円、上にぎり:1,800円、鉄火ちらし:1,100円、海鮮ちらし:950円、あなご箱寿し:1,000円、焼鯖バッテラ:700円など。
単品でも注文でき、これがまるで回転寿司のような良心価格で驚きます。
高知の郷土料理などに使われる「ひめ市(ヒメイチ)」の握りもありますね。正式な呼び名は「ホウライヒメジ」。土佐湾の底引き網でかかる鯛に煮た小魚です。そのほか、かつを:150円、たち魚:150円、たい:150円など、地のものが揃っています。
いかにも市場の寿しらしい、正統派
ビールのおつまみに、サービスの小鉢
おつまみにどうぞ!とサービスで出していただいた、焼鯖。高知はカツオが有名ですが、土佐の清水サバに代表されるゴマサバの名産地です。脂がのっていて実に美味しい。
にぎり一人前、赤だし付き(950円)
「はい、どうぞ」。市場の店らしい素早い所作であっという間に握りができあがりました。一人前で千円以下ととっても良心的。東京の握り寿司よりひとまわり大きめで、厚い寿司ダネが酢飯を包み込んでいます。
たい、かつを、しまあじ、鯖、玉子、びんとろ、まぐろ、あなごと、上にぎりではないものの豪華な内容です。
お醤油は塩分が抑えめでコクと旨味が濃厚な、大将が独自に配合したもの。これをハケで塗るようにしてつけていきます。
一部がパリッとしつつ全体的にはふっくらとした穴子、コリコリとした食感の鯛。
どれも市場まできた甲斐があると感じますが、なによりかつおが絶品です。寿司の主役といえばマグロ。それを上回る美味しさでカツオが輝いています。やはり高知はカツオの国。鮮度がよく爽やかなのに、上品な旨味が舌に残る絶品でした。
アラと里芋の団子が入った赤だしで、お腹を温めてほっと一息。
時刻はまだ正午前。旅先の一日で、最初の食事にお手頃なお寿司で地魚を楽しむ。とても思い出に残る体験でした。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 幸寿し |
住所 | 高知県高知市弘化台12-12 高知中央卸売市場内 |
営業時間 | 営業時間 11:00頃~15:00 日曜営業 定休日 不定休 |
開業年 | 1984年 |