小千谷『へぎそば処和田』創業から約1世紀。上越の旅を彩る蕎麦前を

小千谷『へぎそば処和田』創業から約1世紀。上越の旅を彩る蕎麦前を

2021年12月7日

小千谷駅前で、昭和元年から続く老舗蕎麦店『小千谷そば へぎそば処和田』は、旅するお酒好きにオススメしたい一軒です。旅行者も利用しやすい通し営業。看板料理のへぎそばはもちろん、地物の岩魚や舞茸のおつまみが魅力的です。

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汽車とともに一世紀

小千谷(おぢや)は、新潟県のほぼ中央に位置し、長岡や魚沼に接する町です。信濃川がつくりだした河岸段丘に中心街や農地が広がっており、水運の拠点としてや、三国街道の宿場町として古くから栄えてきました。農地の9割は水田と米づくりが盛んなこともあり、「長者盛」の新潟銘醸、「たかの井」の高の井酒造と、酒造りも行われてきました。

また、錦鯉発祥の地としても知らており、全国でも珍しい錦鯉漁協が組織され、日本はもちろん世界各国に錦鯉の魅力を広めています。

江戸・東京と新潟を結ぶ交通が人や馬から鉄道へシフトするようになると、小千谷は鉄路の拠点として整備されるようになります。1920年に小千谷駅(開業時は東小千谷)が開業し、1931年に上越線が全線開通すると、同駅は、上野と新潟を結ぶ幹線の主要駅として、多くの旅人が訪れるようになりました。

そんな上越線開通に湧く小千谷駅前に、一軒の蕎麦屋が店を開きました。それが『へぎそば処 和田』です。

外観

上越線の全線開通から5年前の、1926年(昭和元年)の創業。小千谷の中心市街は駅より信濃川を渡った先、約1.5キロメートルと離れていることからも、『へぎそば処 和田』が駅と密着の関係であることがわかります。

1982年の上越新幹線開通までは幹線の駅として特急列車も停車していた小千谷駅ですが、現在は1時間30分に1本程度のローカル列車が往来するだけのローカルな駅になりました。駅前の賑わいも次第に失われ、シャッターを閉めた店が目立つようになります。そうした中でも『へぎそば処 和田』は、お昼から夜まで通しで営業し、近隣で働く人々や家族連れ、そしてローカル線の旅を楽しむ旅行者を迎えています。

内観

あたたかく迎えてくれる家族経営の店です。現在店に立つご主人は3代目。タイミングが良ければ、店頭のガラス張りの作業場ではそば打ちの様子も見せてくれます。

店は落ち着きある広い空間です。気軽に一人利用ができるカウンターや、どっしりとしたテーブル席、店の奥は畳敷きの入れ込み座敷があります。

乾杯は地酒「たかの井」のお燗で

駅前食堂やそば店で、定番の酒が地元銘柄というのはとてもしっくりきて嬉しいものです。「たかの井」(1合350円)のお燗をもらって、乾杯。

品書き

飲み物とおつまみ

ビールは中瓶のみで、銘柄はアサヒスーパードライ(500円)。お酒はたかの井のみ。アルコールは2種類のみですが、日本酒を飲む人の姿が目立ちます。

おつまみは、にしんの煮付け(470円)、かつ煮(580円)、岩魚の天ぷら(450円)、天ぷら盛り合わせ(850円)、舞茸天ぷら盛り合わせ(670円)、えび天(290円)など。

そば

へぎそば(1人前810円)、手打ちそば(1人前910円)、手打ち天ざるそば(1人前1,500円)、もりそば(700円)、カレーそば(860円)、きのこそば(795円)など。蕎麦屋のカツ丼といえばつゆが楽しみですが、新潟らしく新潟名物タレカツも用意されています。

蕎麦前に風土を感じる

岩魚の天ぷら(450円)

さり気なく天ぷらの品書きに「岩魚」が書かれていることは見逃せません。3代目のブログによれば、魚沼市六日町で養殖されたもので、八海山の伏流水で育てられているとのこと。

身は引き締まりチリチリとした食感の先に、上品な脂の旨さと甘さが待っています。川魚のクサミは皆無で、非常に上品な美味しさがあります。

へぎそば(1人前810円)

お酒をおかわりしたところで、〆のへぎそばを注文。小千谷はへぎそば発祥の地(諸説あり)であり、ここでお蕎麦を食べずに飲んでいるだけでは、さすがにもったいない気がしてきました。

いくつか特徴があるへぎそばですが、まずは盛り付けが他の地域のそれとことなります。手振りそばとも呼ばれており、水から持ち上げた一口分の蕎麦を二段に畳み込み、同一方向に数回にわけ盛り付けています。

つなぎには、布のりが使われているのも、東京の蕎麦とことなります。紫色をした布のりですが、煮ることで緑色になることで、そばもやや緑がかったものになっています。同店では、そば粉には小千谷産の「とよむすめ」という品種を主に使用しているそうです。

かつおの出汁が効いた汁はコクが強く香りも豊か。布のりが入ったへぎそば特有ののど越しが心地よいです。

秋はきのこ類、春になればふきのとうやタラの芽などの山菜も品書きに加わり、旅先の一杯を盛り上げてくれます。シメの蕎麦も忘れずに、山間の街・小千谷の風土を楽しまれてみてはいかがでしょう。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名小千谷そば へぎそば処和田
住所新潟県小千谷市東栄1丁目2-2
営業時間10:30~19:30(水定休)
開業年1926年