飯田橋『大衆割烹三州屋 飯田橋店』期待に応える老舗の技と客あしらい

飯田橋『大衆割烹三州屋 飯田橋店』期待に応える老舗の技と客あしらい

2021年12月1日

東京を代表する大衆割烹の暖簾「三州屋」。酒は白鶴、ビールはサッポロ。豊洲仕入れの美味しい魚を、都心にいながら良心価格で食べさせてくれます。飯田橋・神楽坂の三州屋は酒場好きなら一度は訪ねてほしい名店です。

スポンサーリンク

大衆酒場ではない。『大衆割烹』という響き

三州屋とは

東京を中心に「大衆割烹」という居酒屋の類別があります。和食の修行をした板前さんが立ち、刺身や焼き魚はもちろん、コロッケや炒めものまで揃える店もあります。大衆酒場のような料理とお酒が並ぶものの、そこはやはり「割烹」の流れであり、一線を画するものだと思います。

白木のカウンターにかっぽう着姿の給仕係が立ち、日々のお小遣いで気軽に板前の料理が楽しめる、都内に複数存在する「三州屋」はその最たる例です。

1940年代に創業した三州屋は、暖簾分けで都内各地に10店以上店を構えたものの、後継者問題や再開発などの事情によってその数は減少の一途をたどっています。とくに昨今の飲食店を取り巻く状況の中で、複数の店が閉店する事態となりました。

飯田橋駅前のエアポケット

そうした中でいまも力強く営業し、都心で働く人々の活力を与えてくれている「大衆割烹 三州屋飯田橋店」は貴重な存在です。

目白通りと外堀通りが交差する、飯田橋駅前の賑わいの中心。そこから一本入った裏路地にあります。駅から100mも離れていないのに、ここだけエアポケットのように昭和の東京の姿を留めています。

くもりガラスには、仕事終わりのオフィスワーカーが楽しそうに飲む様子が映り、時折笑い声が聞こえてきます。

さて、ぼんやり灯る電球色の明かりに誘われて、暖簾をくぐりましょうか。

無垢の分厚い一枚板をつかった造作は、都心の他の三州屋にも見られる三州屋らしさのひとつです。

つくりもののレトロ風では演出しきれない堂々とした風格。頼れるカウンターは、ときにして椅子の座り心地よりも重要です。

乾杯は何十年も変わらない、サッホロラガー

老舗のテーブルにサッポロラガー。まるでここに置くために製造されたかのようにフィットします。懐かしいビヤタンにトクトクと注いで、乾杯。

品書き

お酒のメニュー

奇をてらったお酒はなく、顔ぶれに変化はありません。ビールは、樽生がサッポロ黒ラベル(530円)、大瓶でサッポロラガーとサッポロ黒ラベル(ともに650円)、日本酒はほぼ白鶴で、上撰 白鶴きりっと辛口の大徳利(700円)、白鶴淡麗純米(860円)、白鶴吟醸酒(1,190円)。

料理のメニュー

三州屋は揚げ物を出す店は限られています。飯田橋店も揚げ物はありません。ですが、メニューは非常に充実しており、魚で飲みたい心を十分に満たしてくれるはずです。

刺身盛り合わせ(1,000円)、鮪刺身(1,100円)、白身刺身(1,100円)、めじ鮪刺身(1,000円)、鰹刺身(1,000円)、ハマチ刺身(1,000円)、いか刺身(850円)、鯵たたき(850円)。

三州屋共通の名物・とり豆腐(500円)、銀むつあら煮(850円)、柳川なべ(850円)、かき豆腐(650円)。

焼き魚も充実の品揃え。銀むつ照焼(850円)、めだい西京焼(720円)、ぶり照焼(700円)、銀鮭塩焼(700円)、銀鮭照焼(700円)、さば塩焼(550円)、にしん塩焼(520円)など。

肉料理はとり豆腐以外一切ありません。

昼の定食は相席になるほど人気です。名物料理の魚介系の定食が、神楽坂・飯田橋界隈で千円以下。

仕入れがいい、包丁がいい

お通し

マニュアルなんてない、お姉さんや女将さんのカジュアルで温かい客あしらいが心地いい。冬でも店の雰囲気に浸れば、あっという間に心が温かくなります。

日替わりのお通しは染みた厚揚げです。だいたいは品書きにある小鉢料理をお通し用に小さくしたものが出ます。

刺身盛り合わせ(1000円/1人前)

飯田橋の三州屋は、とくに刺身が楽しみの店です。

この道何十年のベテランの板前さんが手際よく仕上げた刺身盛り合わせ(※写真は二人前)は盛りの良さ、魚の良さに定評があります。内容は日々変わりますが、取材時は本まぐろ赤身、めじまぐろ、ハマチ、鯛。

出し惜しみない厚さと盛りは、一人前でもかわりません。

上撰白鶴(700円)

三州屋飯田橋店は、断然お燗酒がおすすめ。大衆店でありながら、一本ずつ湯煎でつけています。また、徳利表面についたお湯を垂らさぬように、いまは珍しくなった「袴」と呼ばれる受け皿も未だ現役です。

“しきたり”通りの徳利お燗酒の様子は、眺めているだけでお酒が進みます。

ぬた(550円)

三州屋のぬたが好きです。赤味噌にみりんをたっぷり効かせ、たっぷりの本まぐろとあわせたもの。トロに近い部位をさっぱり食べさせるためか、入るマグロの部位は脂がのったものが多いのも特長です。

ぶり照焼(700円)

東京うまれの人が好む、甘さと醤油をたっぷり効かせた三州屋の照焼や煮付け。あまりフォーカスされることはありませんが、こういう味付けは江戸・東京の郷土料理ではないでしょうか。

これくらい甘さとしょっぱさを効かせなくっちゃね!

脂ののったブリは、箸をいれると大きくごそっと身が離れます。

銀むつ照焼(850円)

三州屋は、鳥豆腐も好きだけど銀ムツを目的に行くんだよ、そんな話しをする常連さんが知り合いにいます。まさしくその通り。身離れがよく身の間からじゅわっと脂がにじみ出てきます。

こまいのひもの(550円)

上燗の白鶴にあわせる、箸休め。大きくて物が良いようで、コク深くしみじみと美味しいこまいです。

おしんこ(480円)

なす、きゅうり、にんじん、白菜、カブのぬか漬け。

カウンター席で一人の時間を楽しむベテランの会社員や、テーブル席でちょっとした宴会を楽しむカジュアルなグループ。女将さんがさり気なく会話に加わり、店の時間をより楽しい雰囲気にしている様子などなど、酒場の雑多な感じが実に心地いいです。

最近、こういう典型的な魚とお酒を楽しむ老舗が少なくなってきました。大衆割烹三州屋飯田橋店は、飲兵衛にとっては理想的な場所です。これからも、末永くご繁盛でありますように。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名大衆割烹 三州屋 飯田橋店
住所東京都新宿区下宮比町1-7
営業時間11:30~14:00 16:30~22:30(日定休)
開業年1980年頃