JR蒲田駅と京急蒲田駅に挟まれたエリアには、あらゆるノンベエを吸い込んでしまうような、懐の深い飲み屋街「蒲田東口商店街」があります。今風の立ち飲みや、おなじみのもつ焼き屋、レコードを抜群の音で聞かせてくれるJAZZバーだってあります。
一度入り込むと、なかなか抜け出すことができません。あのお店に寄って、次にあっちに寄って…と、来る日も来る日も梯子酒。そんな私も、じっくり飲みたいときがあります。今宵はいわしと焼鳥の店「スズコウ」の暖簾をくぐります。
精養軒(横浜)で修行をした鈴木登志正さん(スズコウの大将)が独立し、お兄さんといっしょに蒲田東口で洋食「グリルスズコウ」を開いたのが1964年(昭和39年)。それから5年後に、登志正さんが同じく蒲田東口に「スズコウ」としていわしと焼鳥の大衆割烹を開き、それから半世紀――
「蒲田でいわしを食べるならばスズコウ」という話は、蒲田で出会った人によく聞きます。
小上がり、テーブル席、カウンターの配置で、4~6名グループがちょっとした宴会に使っている様子もみかけます。一人で飲むならば、カウンター席が空席であることも多く、人気店ながらふらっと入れることが多いです。
まずは瓶ビール(キリンラガー・中ビン600円)で乾杯!
樽生ビールはキリン一番搾り(600円)、日本酒は定番に老舗らしい菊正宗(1合500円)。サワー類は450円。
さてさて、楽しい献立観察のお時間です。なんといっても注目はいわし料理のバラエティの豊かさ。注文を受けてから捌く人気の刺身、たたき、みそたたき、いわし辛し酢みそ。15種類ほどある料理はどれも魅力的。竜田揚げ・ゴマ揚げ・香り揚げを一皿に盛った「いわし揚げ盛り」(800円~)は、あれもこれも食べたいときに最適です。
桜色の身と皮の脂の透明感。ピンとたつ身の先端。見るからに美味しいわけですが、食べればもっと美味しいです。
ここのいわし刺身(750円)は、いつ食べてもうなるばかり。網からあがったいわしをすぐに氷漬けし、なるべく素早くお店に届くようなルートをつくり、この味を半世紀にわたって維持している…すごいことです。
頭から骨にかけては骨せんべいにしてくれます。これがサクサクでたまりません。刺身が目的ですが、この骨も期待を裏切りません。
ちびりと酒の肴にとおつまみにするならば、いわしタレ焼き(800円)はいかがでしょう。蒲焼風に開いたいわしを、甘辛いタレで照焼にしたもの。山椒がいいアクセントです。
肉厚で脂が多く、タレが濃厚でも身の鰯特有の爽やかな味わいは残っていて、その余韻は日本酒を誘います。
緑茶割り(450円)。グループのお客さんの注文の間に、ほっとひといきのお姉さん。人懐こく接客上手な方で、酒場に行きたいと思う若い年代の人も、きっと優しく迎えてくれるはず。
スズコウはミュージシャンが集う酒場としても知られていて、店内にはいま話題のアーティストのサインも多いです。そんな若い力もお店の原動力だとご主人は話されていました。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | スズコウ |
住所 | 東京都大田区蒲田5-18-14 |
営業時間 | 営業時間 18:00~24:00 定休日 日曜日 |
開業時期 | 1964年 |