ここは熊本県八代市。南九州地方有数の工業都市で、八代駅に隣接した日本製紙八代工場のスケールに圧倒されます。また、八代は長年城下町として栄えてきた歴史を持ち、市中心部にある松江城、現八代城が街のシンボルです。
働く人がいるということは、飲む人がいる。かつて熊本市に次ぐ賑わいと言われた八代市の商業エリア・本町を散策し、目指すは八代でもトップクラスの歴史ある酒場の1軒「なわや」を目指します。
南北は811メートル、東西に1477メートル、球磨川の扇状地という開けた地に築かれた立派な城は、天守閣などはないものの、地方都市の城址としてはたいへんに立派なもの。
県南の商業、工業の中心的な役割を持つ八代は、商店街や飲食店街も堂々としたもの。現在、中心地の空洞化対策が進められています。18時ごろになるとどこからともなく人が出てきて、赤ちょうちんに照らされた通りはなかなかの賑わいに。飲み屋の数は多く、はしご酒が楽しいエリアです。
そんな八代で長年暖簾を掲げてきた飲み屋が「やきとり なわや」。豚、鶏だけでなく馬肉や八代海でとれた新鮮な魚介類も提供してくれるお店です。
ビールはサッポロ黒ラベル(中550円)。大分県日田でつくられる、九州づくりのサッポロビールです。状態抜群の樽生をもって、さぁ乾杯。
ご主人、女将さんがあったかい雰囲気で聞かせてくれる地元話を伺いながら、突き出しのニラ酢味噌をちびりと。そして黒ラベルをぐっと。
瓶ビールは嬉しい大ビン(650円)あり。チューハイ(400円)は樽詰めです。焼酎の単位が「お銚子」になっているのがいかにも南九州らしいところ。熊本、鹿児島、宮崎はやっぱり徳利焼酎ですよね。
何からいきましょう。オススメが書かれたホワイトボードは、筆頭に馬刺し、しかも霜降りです。馬レバーも珍しい。煮込みまでも馬のスジ肉が使われています。焼き鳥台に網を載せ、ころころ焦がして仕上げる豚足も魅力的です。
定番メニューは、串焼き、唐揚げ、ニラホルモン(八代の酒場に多いローカルフード)などいろいろ。価格は500円前後が中心で、個人経営の酒場として非常に良心的です。あと、触れておかなくてはいけないのは、「ふぐ汁」や「貝汁」の存在でしょう。天草や八代の食堂にあるご当地メニューで、汁を看板に掲げる店もあるくらい、この街に根付いている料理です。
想像以上に”絵に書いたような霜降り”だった馬刺し(1,500円)。地元の甘口醤油を風味付け程度につけて、ひとくち。たんぱくな馬刺しのイメージを大きく変える衝撃的な味です。甘みを感じる脂がしっかりのっているのに、余韻は驚くほどにさわやか。口の熱でほとんど溶けてしまうような、とろける食感です。
馬刺しのインパクトから落ち着くために、ちりめん大根でひといき。いやー、馬刺しはすごかったです。今でも忘れられない、あのトロ旨な感覚。あわせるお酒は、樽詰チューハイ、氷彩サワー(400円)。
焼酎は、町一番の酒造事業所、メルシャン八代工場で製造された「白水」。お湯割り、ロック、どちらもおすすめとご主人ですが、ここはよく冷やして飲んで、濃いめの肴とあわせようという計画です。
ご主人も一押し、漬ホルモン炒め(780円)。ピリリと唐辛子がきいた甘ダレをまとった、ぷるぷるのホルモン炒めです。時間をかけてじっくり味を染み込ませているそうで、中までしっかりきつね色。これで焼酎が進まないはずがありません。※お酒は適量で。
頂いた自家製塩辛をちびりと焼酎。飲んでいると次々に地元の常連さんがやってきて、10席ほどのカウンターはなかなかの賑わいに。みなさん、ボトルキープをしっかりされています。
バーやスナックへ繰り出す前に、軽い食事をかねて飲みに来るお父さんや、小上がりでのんびり楽しむご夫婦など、幅広い客層が訪れる「なわや」。街に根付いた繁盛店で、土地の風土に浸り味わえる、素敵なひとときでした。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
なわや
0965-34-1919
熊本県八代市本町1丁目6−3
17:00~23:00(月2回不定休)
予算3,000円