福岡の屋台は焼とりを出すお店が多く、これは戦後の混乱期に入手しやすくエネルギーも高いお酒のおつまみとして広まったと言われています。その頃、東京もターミナル駅周辺にできた闇市などで「やきとり(豚モツ)屋」が多数誕生し、今も続く店はもつ焼き・やきとりの老舗として親しまれています。
戦前からあった焼とりは、鶏や雀などの小鳥を調理していたそうですが、福岡で豚モツなど様々な肉を焼とりとして提供するようになったのはこの頃から。その当時から現在に続く一軒が、1949年創業、箱崎に店を構える「本家藤よし」です。
箱崎駅は、博多駅からJR鹿児島本線で2駅、約7分。九州大学の最寄り駅でもあります。近代的な高架駅で、駅周辺は高層マンションなどが立ち並ぶベッドタウンです。
藤よしは、箱崎駅から5分ほど。駅前から少し離れた場所に古くからの商店街があり、そのなかの一軒です。この通りは現在は福岡直方線という県道ですが、かつては唐津街道箱崎宿があった場所であり、当時の名残がいまも商店街として残っています。
どっしりとした店構えに、「鳥」の文字を掲げた店構え。老舗の酒場を好む人ならば、この外観だけで吸い込まれてしまうのではないでしょうか。
店は広く、そして穏やかな雰囲気。宴会席、テーブル席、小上がり、カウンターという配置で、焼き場と板場が眺められるカウンターがノンベエには特等席でしょう。
創業者 早川清一氏の肖像画が店を見守っています。
冷蔵ケースには、玄界灘でとれたヤズ(ブリの若魚)やホンサバ、マアジなどが並んでいます。福津港からの直送とのことで、刺盛り(1,500円)などで供されます。
まずは、なにはともあれビールから。樽生はアサヒビール博多工場でつくられるスーパードライ(中ジョッキ500円)。では乾杯!
状態抜群のスーパードライは乾いた喉を心地よく刺激して、”さぁ、美味しい料理を食べよう”という気持ちを高めます。
瓶ビール大瓶でキリンラガーやヱビス(600円)、樽詰チューハイ(500円)、日本酒(500円~)、そしてやっぱり福岡といえば焼酎で、いも・むぎ・こめ・ごま・そばと揃い、一杯300円からです。
マエビとバイ貝の煮付けと、ブリ甘煮。お通しは地物の食材から美味しいものをちょんちょんと盛り合わせています。
分厚くて奥行きのあるカウンターに、温かい照明に照らされた飴色の空間。ここで「ふーっ」ってなりながら焼とりを待つのは幸せなのです。
戦後復興、高度経済成長を支えた福岡の焼とり。そんな歴史背景も隠し味です。この通り、長ネギではなく玉ねぎを挟むのが福岡のスタイルで、肉も鶏、豚、牛と様々。
部位は、べんてん、がつ、かしわ、ずり、くびかわ、つくね、なんこつ、タン、手羽、レーバー、はつ、こぶくろ、きも、玉ひも、べた、たん、ばら、おく…等、とにかく豊富。伝統のタレは甘くねっとり、部位によっては塩になります。初代の解説には「百言は一食に如かず」と書いてあって、とにかく熱々で食べてみてと綴られています。(1本130円~200円)
下処理がしっかりされていてクサミがなく、軽く食べられます。
なまこ料理、かき料理、うなぎ蒲焼に、鯛あら炊きや酒蒸し、土瓶蒸し、イカ料理など地元食材の料理がとにかく充実していて、どれも600円前後と手頃なのも嬉しいです。
渡りかにの唐揚げ(650円)を頼んでみましたが、これが絶品。脱皮直後の柔らかな甲羅で、爪などはそのままかぶりついていただけます。
そんな料理に囲まれると、やっぱり進んでしまうのが本格焼酎。しろ、いいちこ、茜霧島、金黒、白波、雲海と比較的メジャーな焼酎が並んでいる中、日田全麹をロックでもらいました。グラスに並々注いでくれます。
自家製シューマイや鶏皮酢なども美味しいと常連さん。後ろ髪を引かれる思いで、今夜はこれくらいに。お会計の際に、とりスープを出していただきました。これは困った、もう一杯飲まないと。お湯割りをお願いします。
福岡で豚や牛など様々なモツを刺した焼とりを最初の頃に広めた一軒と言われる「藤よし」。手頃で美味しい料理を老舗の空間で楽しめます。皆さまも福岡で飲む際に、箱崎まで足を伸ばしてみてはいかがでしょう。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
本家 藤よし
092-641-3988
福岡県福岡市東区箱崎1-36-1
16:30~23:00(ランチ営業あり・月定休)
予算3,000円