湯島「岩手屋(支店)」 この街で70年。いつもそこにある、しみじみ美味しい店

湯島「岩手屋(支店)」 この街で70年。いつもそこにある、しみじみ美味しい店

2019年3月18日

今日は湯島にやってきました。最寄りのJRの駅は御徒町なのですが、上野広小路(中央通り)より山の手側は、その町で飲んできた先輩方に尊敬を込めて、「湯島」としっかり呼び分けたいです。

湯島は坂の街。ここが本郷台地との縁であり、山の手と下町の境界線です。居酒屋やとんかつ、天ぷら店などの名店と呼ばれる飲食店が並び、狭い範囲ながら歴史の奥行きが非常に深い地域でもあります。

そんな湯島の飲み屋街で1949年(昭和24年)から暖簾を掲げる「岩手屋」。岩手のお酒や料理でもてなしてくれるお店で、ご想像の通り初代は盛岡の出身です。現在は代替わりしているものの、宮古直送の鮮魚を揃え、より一層岩手を感じられる酒場になっています。

湯島天神は都心で手軽に楽しめる梅の名所。学問の神様としての参拝や梅の季節と、春はなにかと賑やかです。

昭和40年代に支店を開き、以来湯島で2店舗続けている岩手屋。営業時間に差があるほか、「私は支店派」など、通われる人々も各々好きな店があります。私は比較的静かな支店のカウンターでのんびりと燗付器を眺めて飲むのが好き。

ご紹介するのは支店のほう。雰囲気はそれぞれですが、本店のほうは地元の小学校や大学卒の方や、県人会で活躍される方が集まり、よりどっしりした印象です。

支店は気軽に入れるように私は感じています。

店主の方のこだわりで、カニ泡がなくきめ細かな泡になるまで丁寧に泡を整える生ビール。瓶ビール(中びん650円)で赤星があるものの、ここの生ビール(中650円)もまた選びたい一杯です。

では乾杯!

菊の司(盛岡)の米焼酎「だだすこだん」(680円)や大手系では和ら麦(690円)など焼酎はありますが、酎ハイは扱いがなく、ほとんどが日本酒というドリンクメニュー。歴史ある酒場らしい内容です。

縦方向に揃えた菊の司は8種類。正一合で680円から。

料理はバリエーション豊かで、その多くがめったに食べられない個性的な肴です。たとえば豚ハツの燻製(560円)など。

日替わりの料理もまた楽しい。宮古のカレイ(刺し700円)だけでなんと3種類もあります。真カレイ、石カレイ、水カレイと食べ比べ(700円)できるのも都内ではここくらい?

やりいか、メバル、サンマの千枚漬けというのも気になります。冬季のどんこ汁や白子湯豆腐も季節を感じていいですね。

昆布締めが好物で、タイやヒラメはよく食べるものの、サバの昆布締めとはまた珍しいです。岩手の東に位置し、三陸海岸に面した漁師町・山田町から届いたものです。

コクが大変濃厚で、クサミはなし。深い旨みが日本酒を強烈に誘います。

燗酒の気分。岩手屋は全国でも貴重になった回路式の燗つけ器が現役です。下からガスの火をあて器の中を満たした水を温め、そのお湯の中をお酒が流れる回路が通るという仕組み。上のじょうごからお酒を注ぐと、回路を流れる間に暖められ、注ぎ口からは適温の燗で流れ出てきます。

徳利には菊の司の文字。酒場でよくみられるものではなく、通い徳利風なのがまた渋くてかっこいい。

温かいお酒に、温かいおつまみを。ひっつみ汁は盛岡で外せない汁もの。そしてバランスのよいお酒のおつまみです。干ししいたけの旨味が引き出された汁は、素朴な旨味でいっぱいです。

奥様公認のお猪口がまた可愛い。今日は一合と決めていても、気づけばこの居心地の良さにおかわりしてしまうものです。

丁寧な接客で親しみあるご主人と、ほっとする優しいお姉さん。ここは湯島にありながら、気づけば心だけは盛岡に運ばれたように感じます。

皆さんも身近な岩手へ、お酒を飲みにふらっと立ち寄られてみてはいかがでしょう。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

岩手屋 支店
03-3831-9317
東京都文京区湯島3-37-9
16:00~22:00(土は21:00まで・日祝定休)
予算3,500円