京都には有名な飲み屋がいくつもあります。どれも個性豊かで、京都の魅力を感じるワンシーンがあります。でも、今回の京都はいつもと違ったお店を選んでみたい。そんな気持ちになることは、ありませんか?
地元にお住まいの方がほとんどの、地域密着の老舗飲み屋「ふる里」はいかがでしょう。阪急大宮駅近く、家族経営のあったかいお店です。
阪急京都線の大宮駅。四条通と大宮通りが交差する場所で、幹線系統の市バスや嵐山を結ぶ小さな私鉄・嵐電も発着する地域交通の要衝です。朝11時から開く立ち飲み店など、居酒屋も多い場所です。
阪急電車を降りて階段を登れば、すぐの場所に「ふる里」はあります。
年代物の飲食ビルの3階へ。いい感じの飲み屋があるか心配になるかもしれませんが、ご安心を。
エレベーターのドアが開いたら、この雰囲気。ね、素敵でしょ。ビルの空中階というハードルが、いい具合に隠れ家となっています。
今宵も地元率100%の店内。早い時間から満卓になるのは当たり前。1人ならばカウンターの僅かなスペースをお借りして入れるかも。厨房に向いたカウンターと宴会もできる小上がりという典型的な酒場の造りです。
ビールは長年サッポロ一筋。赤星マークのレトロジョッキが今も現役です。樽生も瓶も黒ラベル。今日はちびりと飲み進めたいので大びん(以下税込・670円)スタートです。では乾杯!
暖簾の文字の通り、日本酒は京都市の地酒、羽田酒造の初日の出(小徳利430円)。もちろん京都ですから、バクダン(ワインベースのハイボール・520円)もあります。
料理もずらりと書かれていますが、その数なんと150種類ほど。割烹料理から中華、洋食なんでもござれ。
焼鳥に鉄板焼きまで。地元のお父さんお母さんたちがふらりと立ち寄る理由がわかる大衆価格。ボリュームはしっかりあるので頼み過ぎにご用心。
さらにさらに、今日のオススメがホワイトボードにずらりと載っています。てっぴやよこわは東日本の人には馴染みの浅い呼び方でしょうか。季節モノの松茸と鱧の天ぷらもありますね。(取材は10月)
琵琶湖のもろこや川エビ、岸和田の穴子、この文字を眺めているだけでビヤタンはあっという間に乾いてしまいます。
まずはお造り盛り合わせ。1人分でアレンジしてくれました。よこわ、かつおアオリイカにサーモン、平目のえんがわと昆布締め。美味しいものの集積地・京都。魚もいいもの揃いです。
昆布締めの平目の美味しさは脳をギュンと刺激します。賑やかな店内で、次々富んでくるオーダーに応えている板前さんですが、さすがの仕事です。
ほどなくして、土瓶蒸し(780円)がやってきました。鱧と松茸がある時期ならば、これで飲まないで帰るわけにはいきません。
“液体おつまみ”をきゅっと口に含み、余韻に重ねるようにして燗酒を追いかける。あぁ、至福のひととき。
土瓶蒸しは松茸と鱧がたっぷり。おつゆを堪能した後の、中身もおつまみとして最高です。冷えてきた京都、心と身体に染みていく美味しさとぬくもりにうっとり。
さっきから飲んでいるお酒は初日の出。京都は伏見が酒の名産地として知られていますが、こちらは京都右京区の山間部・北山で作られたお酒です。料理の味を引き立てるクセのない味わい、大衆酒場のお酒はこういうのが一番しっくりきます。
生搾りチューハイの種類の多さもふる里の特徴です。柿チューハイやバナナオレンジチューハイ(520円)など、不思議なものがいっぱい。みかんチューハイはなんと5個もみかんを使用するのだそう。なかなか贅沢なシリーズです。
今回はすだちを5個ひたすらに絞ってつくる、すだちチューハイ(520円)に挑戦。めちゃくちゃ酸っぱい…かと思ったら、青味や自然な甘さもあって、これがなかなかいい感じ。
「ここは何を食べても美味しいの、炊いたのから揚げ物だって最高よ、通い続けてうん十年」と、お酒が入り楽しくなっているお隣の大先輩のお姉さん。長生きの秘訣は、1人でふらっと行きつけの飲み屋に来て食べたいものを食べて飲むことだそう。炊いたものも食べてみたら?とのオススメで、鯛あらだき(620円)。
やっとこ鍋で丁寧に煮ていきます。味は見た目ほど濃くはなく、鯛の脂の甘さが引き立つ程よい塩梅。添えたごぼうもコクがあり、箸とお酒が進む一品でした。
カウンター席は常連さんが集う場所。もちろんはじめての方も大歓迎で、忙しい中でも丁寧に接してくれます。ガイドブックに載っている酒場もよいですが、こういう地元の人が通う日常の飲み屋を覗いてみることもまた、京都の楽しみ方でしょう。
常連さんとのお話に花がさき、すっかりいい具合に飲んでしまいました。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
ふる里
075-841-0746
京都府京都市下京区四条通大宮東入立中町478 鳥居ビル 3F
17:00~1:20(第1・3日定休)
予算3,000円