宇和島「田中」 宇和海の磯料理に舌鼓。魚好きなら一度は訪れたい魚の国

宇和島「田中」 宇和海の磯料理に舌鼓。魚好きなら一度は訪れたい魚の国

海に囲まれた日本、全国で新鮮な魚が食べられます。一括りに魚と言っても、魚種はさまざま。温暖な気候で栄養いっぱいの潮流に揉まれて育った豊後水道の魚もまた絶品です。

複雑に入り組んだリアス式海岸が続く宇和島側は宇和海と呼ばれ、昔から漁業が盛んです。そんな宇和海の漁師が暮らす歴史ある街・宇和島の郷土料理は魚好きの心を掴んで離しません。

地元の人々で賑わう大衆割烹の「田中」は、そんな土地の味を楽しむ酒場です。

 

宇和島へは愛媛県県庁所在地の松山からJR予讃線の特急宇和海でおよそ1時間20分の旅。予讃線の開通は1945年と遅く、また、高速道路の開通も最近のことで、松山都市圏との交流の隔たりによって、漁師町独特の風土が今も残っています。江戸時代まで宇和島藩10万石が治めていました。

 

高松から続くJR予讃線の終着駅・宇和島。ビールを飲みながら海を眺める列車旅もいいものです。

 

宇和島の夜。さぁ、目的の「田中」を目指しましょう。写真の宇和島駅から中心街は歩ける距離で繋がっています。駅併設のJRホテルクレメント宇和島が今日の拠点。

 

店先に立派な鯛やグレが泳ぐ生簀を置いた「田中」。昔ながらの商店街に店を構える老舗です。

 

漁師に地元産業や行政で働くお父さんたち、そして地元のご隠居さんで賑わう店内。皆さん趣味はもちろん釣りだそうで、今日釣ってきた魚の話で盛り上がります。長さ49センチとあるグレの魚拓は、豊かな宇和海を知るのに十分です。

 

カウンターの一席に入らせていただいて、まずは乾杯のアサヒスーパードライ(中ジョッキ500円)。

 

大瓶(600円)ではアサヒとキリンが選べます。本格焼酎や酎ハイは350円から。

 

四国もお酒の名産地なので、てっきり地酒から並ぶかと思っていたら、なんと定番酒は生駒の嬉長(奈良・上田酒造)。ご主人のお気に入りです。地元南予の地酒・野武士(正木正光酒造場)や八幡浜の梅美人など、全国流通は少ない銘柄もあって、品書きだけでテンションがあがります。

 

店先にはスケジュールボードを代用した今日の料理が書かれています。価格は500円前後で、日常利用のお店です。

 

きびなご天にてづくりじゃこ天、ぼらめやうつぼ、ふか みがらし(味辛子という辛子酢味噌)まであります。魚種の多さはさすが宇和海です。

 

川之江の梅錦をもらって、ちびりと舐めながら注文の料理を待ちます。地元のお父さんたちの会話もお酒の肴。おつまみなくともお酒が進みます。

 

おまちどう、じゃこ天(540円)ね!

言わずと知れた愛媛南予地方の郷土料理。メガラやヒメジ、ハランボなどの雑魚(じゃこ)を骨や皮も一緒にすりつぶして揚げたもの。コクと旨味、そして少しの苦味がお酒を誘います。

 

ベテラン板前の大将と、三味線の先生でもある女将さんの、ご夫婦で切り盛りするお店。美味しいのを食べていって!と、大皿いっぱいになる大きさのグレを手際よく活造りにしてくれました。

 

鮮度抜群。ふんわりと花のような香りがあり、クセは皆無。地元の柑橘類を軽く絞るのがここの食べ方です。

 

ぷりぷり、もっちもち。刺身の厚みはこれくらいが丁度よいのだそう。新鮮でもしっかり噛むほどに旨味が舌をつつみます。甘い地元の醤油も美味しさの秘訣。

 

うつぼやぼらめの唐揚げなども全国的には珍しい一品。普通に頼むと量は多いのですが、大将のご厚意でひとついただくことに。うつぼの唐揚げにこだわりのソースがよく合います。

 

採れたての肉厚芽かぶ。見るからに美味しそう。

 

これを軽く湯引きするとこの通り、きれいな海松色に。だしと一緒にすすります。お酒が進み、大将の海の話も盛り上がります。

 

宇和島に来たならば、丸ずし(430円※写真は通常より少なめ)はぜひお酒のお供にしたい逸品です。平地が少なく米に恵まれなかったこの地の人が、お米の代わりにおからを使い、酢締めの魚と握ったもの。このようにイワシを巻くのが定番ですが、きびなごを使うこともあるのだとお隣のご隠居さん。

ヘルシーな〆のお寿司に大満足。

 

厨房に向いた数席のカウンターのお店「田中」。二階には座敷があって宴会もできますが、醍醐味は地元の常連さんたちに混ぜていただいて、魚の話で盛り上がることだと思います。

魚好きにはたまらない酒場です。次の出張や旅行で暖簾をくぐってみませんか。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

割烹田中
0895-23-2250
愛媛県宇和島市新町2-9-5
17:00~24:00(火及び最終週月定休)
予算3,500円