神奈川県最大の飲み屋街、野毛。ターミナル駅に面しているわけでもないこの地に巨大な酒の街が形成されているのは、実に興味深いです。野毛の背景を語り始めるとそれでコラムになってしまうので”Syupo”ではいつも通り飲み屋にフォーカスしてご紹介します。
新旧様々な暖簾が並びますが、ひときわ歴史を持つ店といえば「栄屋酒場」です。1948年(昭和23年)創業で、横浜市特有の酒場組合制度、市民酒場として始まりました。
昔からの地元の常連さんが渋く飲み、ご主人と女将さんが程よい距離感でもてなす光景に惚れる場所です。
長い年月、たくさんの先輩ノンベエが利用してきたことで角がまるくなった椅子。料理やお酒を載せられ続けたことで、鈍く飴色に光るテーブル。建物全体に付喪神が宿っているような雰囲気です。
店の奥にご主人が立つ厨房があり、手前は客席。カウンターはなく、すべてテーブル席です。一番奥はお一人でいらっしゃる常連さんが楽しむ特等席となっていることも。
お酒(380円)、ビール(キリンCL大びん・680円)、定番焼酎ボトルにウイスキー、キリンレモンと古き良き酒場の清い飲み物メニュー。
横浜・山手で操業を開始し、その後、生麦へ移転した、正真正銘・横浜生まれのビールブランド「キリン」。昭和40年代のキリン味をいまに伝える加熱処理ビール・キリンクラシックラガーが似合う店。ビアタンを優しく満たしたら乾杯です。
ブリあらなど、日替わりでちょっとた一口つまみがお通し。
横浜の市場の顔触れを反映した品書き。ほとんどが日替わりです。席数が限られたお店ではありますが、それ以上に種類豊富な鮮魚の数々は、このお店がいかに人気で回転がいいかが伝わってきます。定番のマグロやブリ、タコ、イカ、だけでなく赤貝や殻付きカキ、ヒラメも用意。1,000円未満の料理で揃えられていて、数人で飲みに来たら1人2,000円ほどで満喫できるのも魅力です。
大きく肉厚、立派なシャコ(700円)で始めます。甘味と旨味がたっぷり、ビールの吸い込みを加速する逸品です。
現存する市民酒場など老舗の酒場には、おつまみとしてところてんを扱うお店が多いです。栄屋酒場にあることが嬉しくて、季節外れながらいただきます。(250円)
ところてんには、にごり酒(640円)が非常によくあいます。徳利で供される定番酒や純米酒・東龍(東春酒造・名古屋)も美味しいですが、こちらもおすすめです。
栄屋酒場の濁りは微発泡、ぷちぷちとした口当たりと、爽やかな米の厚みある味わいがほどよいバランスで楽しめます。
ボリュームある名物の穴子天を頼む人が多い中、ひとりで食べきれないという人には穴子煮(750円)はいかがでしょう。あっさり甘さ控えめで浅く煮た穴子は、日本酒のお供に十分すぎる美味しさ。
もともと根岸、神奈川、子安は穴子漁が盛んだった場所で、現在も穴子漁師さんがいる地域。そのような場所だからこそ、食べて嬉しい逸品です。
ほどよい燗具合の徳利を傾け、ちびりちびりと飲んでつまむ愉快な時間。数人できて賑やかに飲む人もいますが、店の年輪を肴に飲むひとり・ふたりの静かな使い方をぜひ楽しんでみてください。
きっと、老舗酒場がもっと好きになるはずです。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
栄屋酒場
045-251-3993
神奈川県横浜市中区長者町9-175
17:00~23:00(日月火祝定休)
予算2,300円