【閉業】水戸「乃ぐち」 大工町で85年続くおでん肴に久慈の山のコップ酒をちびり

【閉業】水戸「乃ぐち」 大工町で85年続くおでん肴に久慈の山のコップ酒をちびり

2018年2月26日

東京から水戸へは70分ほど。日本三名園に数えられる偕楽園で知られる街ですが、その歴史の長さから飲み屋街もかなり立派なもの。駅周辺だけではなく、銀杏坂沿いに北西方向に帯状に繁華街が形成されていて、その西端にはかつての花街の面影を残す大工町と呼ばれるエリアがあります。

水戸の歴史を肴に飲みたい。そんなときに何度か立ち寄ったお店が大工町交番近くの「乃ぐち」です。創業は1933年と古く、現在は二代目が戦前からの初代の味を受け継いでいます。

 

建物こそ新しいものの、以前の店舗から移設した扉や内装などの木材から、なんともいえない花街のおでん屋の風格を感じます。

 

カウンター中心のこじんまりとしたお店で、ちょっとした小上がりも用意されています。水戸の飲み歩きのスタートは比較的遅めで、周囲がすっかり暗くなった頃になると続々と地元のご隠居さんが集まってきます。

 

ビールは生瓶ともにアサヒで、日本酒はコップ酒(290円)で味わう常陸大宮の地酒「久慈の山」。おでんがメインですが、水戸周辺の港から水揚げされた海産物が焼き物として充実しているのもここの個性。

 

20種類以上のおでん。注目はイカ姿なるおでん種。名前の通りそのままの姿で煮られます。

様々な具材が入っているもののおでん出汁は透き通っていて、だしの風味を素直に感じられます。

 

まずは、なにはともあれ生ビール。どんな季節でも酒場の一杯目はビールが美味しい。乾杯!

茨城は守谷にアサヒビールの工場がある関係か、アサヒをみかける機会は他の飲み屋街より多く感じます。

 

つみれ、大根、そして限界までクタクタになったとろりとしたちくわぶ。しっかり辛い練がらしをそっと塗って頬張れば、説明入らずのいい気分。常連さんが頼んだ焼き魚の風味が漂う静かな店内で、ゆっくりとした時間が流れます。

 

ビールの次はお燗酒。燗つけしてくれたお酒を目の前でコップにトトト。表面張力でとどまるお酒から、ふんわりと甘い香りとアルコール感。寒い季節、おでんをつまんで普通酒の燗を飲む。これを幸せに思える育ち方をしてこれてよかったです。

 

大将が丁寧に見守る角鍋前の特等席に座り、つぎは何を食べようかと悩む。こんな時間もまた好きです。豆腐やロールキャベツをもらって、気づけば乾いていたコップに再び注いでもらい、じっくりと飲み進めていきます。

大工町の話、店の歴史などの奥行ある背景もつまみに、体はじんわりと熱くなってきました。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

乃ぐち
029-221-0151
茨城県水戸市大工町1-6-7
17:00〜23:00
予算2,000円