【閉店】木場「河本」 ホッピーにやっこさん、昭和の酒場文化遺産

【閉店】木場「河本」 ホッピーにやっこさん、昭和の酒場文化遺産

2014年8月7日

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飲兵衛の間では有名なお店でありながら未だ私が紹介お店が何軒かあります。読者の方でも、熱心な酒場ファンならそろそろお気づきではないでしょうか。
なぜ、こんなに酒場を回っているのに”あの”お店に行っていないのだろうかと。

今回もそんな一軒です。行ったことがないわけではないんです。ここ「河本」は、ホッピー愛好家にとって特別な場所。
昭和一桁の誕生した木場の酒場で、昔は地名の由来にもなった貯木場で働く労働者がさぞ集まっていたことでしょう。それから敗戦、高度経済成長、東京港湾部の再開発と、このお店はずっと東京の変化を見続けてきました。

昭和30年ごろ、ビールが高級でなかなか飲めなかった時代に誕生したホッピーは、ビール代用品として東京の中心部から話題が広まり人気を博した飲み物。このホッピーが誕生したときから、ずっとこれをメインのお酒として扱い続けているのが、ここ河本なのです。

お店の外観は、今にある一般的な飲食店とはまったく違う店構え。さらに、営業時間になっても暖簾を出さないことから、知る人ぞ知るお店というオーラ。

それでも、常連のホッピー好きの人たちが毎晩集い、毎夜紳士の穏やかなにぎわいをみせています。厨房を大きくとったつくりで、そこを広めのコの字カウンターが囲む配置。招き猫や昭和レトロな看板など、店内は大人の隠れ家として十分すぎるムードです。よくあるエンターテイメントの一環で演出しました的な昭和レトロではなく、ここはほんものの世界です。

女将さんはとっても素敵な方で、エアコンのない店内でも、夏場は「暑いわねー、ホッピー飲んでってね」と元気にお話されています。

 

ここのホッピー(400円)は三冷ではないのだけれど、新しいお店が決して作り出せない色っぽい味を楽しませてくれます。甲類焼酎は下町の名脇役・宮崎本店のキンミヤです。これをホッピージョッキに入れて、ホッピーをボトル一本流し込めばちょうどいい量になります。ナカおかわり、なんていうのは本当のホッピーのレシピではないんですよね。

今日も、優しい一杯で乾杯できることが幸せです。

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おつまみはやはり煮込み(300円)でしょう。臭みがまったくない旨味成分たっぷりのシロもつ煮込みは絶品。
いろんなお店で煮込みを食べていますが、ここはホッピーやお店の雰囲気だけでなく、この煮込みだけでも食べに来る価値があると私は思います。

今日は煮込みの鍋で一緒に煮込んだ玉子をおつまみに。

煮込みの旨味にホッピーのやわらかな味わい。これを知ってしまうと木場がたとえ通勤経路でなくとも目指したくなるんです。初めて味わったときの感動はいまも忘れません。

夏場はこれにやっこさん(冷奴のこと)をいただくのが基本。小100円とたいへんリーズナブル。でもとっても美味しんいです。

女将さんのお気遣いに恐縮しながら、今夜も美味しいホッピータイムを楽しみます。酒場という空間は、呼吸をすることも会話をすることも、飲むだけではない心地よさがあります。
スタンプラリーのように酒場をめぐるのではなく、どっしりと人生をかけて常連さんになる気持ちで飲みに行ってほしい一軒です。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

河本
03-3644-8738
東京都江東区木場1-3-3
16:00~20:00(土曜は19時まで・日祝第2土定休)
予算1,300円