大垣は中京圏でもっとも西にある都市。東西の交通の要所として昔から栄え、岐阜県第二の規模です。ここから西へ関ヶ原を越えると滋賀県米原があります。
鉄道においても、在来線はいまも大垣は拠点となっていて、名古屋エリアを走る電車はここで折り返す列車が多く、関ヶ原、西日本方面との境界的な存在です。
立派な駅ビルと、そこから正面へ進んだ大垣城址と水門川(大垣運河)に周辺に繁華街が広がります。
若い人向けのブランドも多くはいる駅ビルは、鉄道の利用客の多さもあって賑わいを見せています。
繁華街は広く、昔の栄えていた頃をいまに残しています。夕暮れの街に人が少ないのは、いまやどの街でも当たり前の光景ですが、再び街の中心部が盛り上がって欲しいものです。
永禄4年(1561)大垣城主氏家直元によってつくられた運河は、木曽川を通じ桑名まで繋がります。鉄道ができる前は、こちらが交通の主流で、やはり街のつくりも運河に寄り添うように形成されています。
そんな大垣の水門川の横に、50年続く名酒場があります。盛升の文字はかすれているものの、建物の年季も相まって、独特な魅力を漂わせています。地元、岐阜は羽島でつくられる千代菊酒造の絵柄もいい味です。
縄暖簾をくぐり引き戸をあけ飛び込んでくるのは、巨大なコの字カウンター。お元気なによりの女将がその中でしきりにいったりきたりをしながら、常連の注文に素早く対応されています。
壁側には小上がりのテーブルが有り、夕方は18時を過ぎたあたりから、近隣の職場のお父さんたちがグループで集まってきます。冬場は鍋があり、地元では鍋の店として認知されているようです。
ビールはサッポロ。今年で50年を迎えた盛升にはサッポロ生ビールがよく似合います。昔ながらの1Lジョッキ(850円・中ジョッキは380円)な上に、そこに入る五稜星のマークも、時代を感じる数世代前のデザインです。
樽冷のサーバーから、勢いよく流れ出すビールを、年を感じさせないテクニックでばっちり注ぐ女将さんがかっこいい。作り手、売り手がおいしく飲んでねと言わんばかりのこの見た目。乾杯です。
お通しは手作りのちょっとした漬物など。
派手さはなく、いかにもな田舎のつまみですが、こういうのが美味しいのです。
ご夫婦で守る暖簾、厨房はご主人が守ります。料理の種類は実に豊富。冬限定の牡蠣は、市場との顔なじみの長い関係が築いた”おいしいやつ”。牡蠣、湯豆腐、そして、定番は牛すじホルモンを頼む人が多い。
千代菊が定番酒で、1合サイズ(一合300円)の緑の瓶をお燗にして飲むのが常連さんの冬の過ごし方です。燗銅壺(かんどうこ)は大きく実に立派。
小学校の教室ほどの大箱な酒場で、寒いときはこの銅壺でもフル稼働になるときもあります。
甘めのお酒で、古き酒場の変わらぬ味という印象。猪口に手酌でいれてきゅっと飲めば、次の肴が食べたくなります。
猪口では面倒という人は、こうしてビヤタンでどうぞ。ちなみに、瓶ビールはサッポロラガー(赤星)がありますので、ちびちび飲むならば大瓶もよいチョイスかと。
淡水魚をつかった料理がもともと盛んな大垣は、酒場にもその名残が感じられます。名物はどじょうの唐揚げで、これでもかというボリューム満点で600円というものなのですが、1人ならば満腹になってしまうようなものですのでご注意を。私はワカサギフライをおすすめします。運河の街らしい肴でしょう。
昔泊まった民宿や旅館のような雰囲気で、女将さんや地元の常連さんたちが穏やかな時間を過ごされています。常連さんが多いですが、初めての人にも女将、お客さん友にとても親切にしてくれますので、勇気をもって縄暖簾をくぐってみては。
古き良きコの字カウンターの魅力がつまった大垣の銘店です。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
盛升
0584-78-6282
岐阜県大垣市栗屋町37
17:00~23:00くらい ※早く閉まることもあるので飲みたい方はお早めに
予算2,000円