函館駅前。東京ならばこういう立地は「やきとり」になるのですが、さすが港町・函館です。若いお店から老舗まで、魚揃い。
渋くてカウンターで飲めるお店をお探しでしたら「魚河岸酒場 魚一心」はいかがでしょう。昔ながらのどっしり構えた素敵な佇まいです。
店先の「さしみの安い店」の看板が、なんのひねりもなく素直です。こういうのもいいですよね!
東京から函館までは、東北・北海道新幹線を使い、新函館北斗駅から在来線で1本。寄り道しなければ5時間の旅です。飛行機でさくっと行くのもいいですが、津軽海峡を眺める車窓を楽しむのも酒の肴のひとつ。今回も鉄道でやってきました。
人口26万人の函館市。かつては北海道の玄関口として青森から青函連絡船が結んでいた街。
さらに昔は、通商条約調印によって1859年(安政6年)に横浜、長崎とともに開港され、西欧諸国との貿易が行われた地です。いまも西洋の風情と歴史ある港湾都市の趣きが残ります。
函館山に五稜郭とみどころいっぱいなのですが、なんせ目的は飲むことですので、そそくさと駅前の電車通りへ。
横丁や朝市、ハンバーガーの人気店などを横目に、歩くこと数分。ここが「魚一心」です。
にしん刺し680円、毛ガニ2,980円、きんき煮2,980円。店先の文字だけでも飲めそうな魅惑の構え。店先に食材が見えるようにしているのは珍しく、冷蔵ケース内にはホッキ、ツブ、カレイ、ホタテなどが活きて並べられています。
地元会社員がぶらり立ち寄るようなお店で、観光的な要素はさほど強くはありません。とはいえ、オンシーズンともなれば函館湾の幸を求め、遠方から飲みに来る人でいっぱいです。
素早い包丁さばきで次々料理を造りつつ、笑顔で接客もされるダンディーなご主人と、それを支えるスタッフの皆さん。呼吸ぴったり、圧巻の光景です。そんな厨房を囲むL字カウンターに座って、このライブ感を肴に乾杯したい!
北海道限定のサッポロビール「サッポロクラシック」が、キンキンに冷やされたジョッキに注がれて登場。ピカピカのサーバーから注がれます。では乾杯!
テーブル席では地元のお父さんたちが飲み会中。カウンターはじゃがいも塩辛をつまみに飲む普段着姿のお一人様や、私のように遠くから飲みに来た人まで様々です。お通しの小鉢はしめじ煮。
飲み物のメニューからみていきましょう。生ビールは中ジョッキ520円。昔の酒場らしいしっかりサイズ。瓶ビールはサッポロの他、アサヒスーパードライも用意されています。日本酒は旭川の北の誉(とっくり1合290円)や高砂酒造。余市のウイスキーもあります。裏面はサッポロソフト(640ml・1,280円)や酎ハイ類(360円)と、至ってシンプル。でも、ちゃんと北海道。
函館といえばイカ、そしてホッケにホタテに…紹介しきれないほどある海の幸。これをお刺身で680円から提供してくれます。活きのいい魚を注文してからさばくものが多く、鮮度とボリュームともに満点です。盛り合わせにすると大皿で食べきれないほどでてきます。
焼き物も魅力的でしょ。
期待高まる品書きに、思わずあれもこれもと頼んでしまいます。お財布の紐が緩むのもしかたがありません。常連さんが食べていたイカ野菜炒めは、刺身用などでさばいてきたイカのゴロ(内蔵)と味噌を和えたものだそう。いいなー、近くならばそういう定番的な肴でちびりとやりたいものです。
日替わりメニューがここで更に加わります。ソイ、油子、活ニシン。自家製しめ鯖も気になっちゃう。ホヤ、きんきん煮付け、全部食べたい(笑)
まずは野菜からと頼んだ「カニサラダ」。なんと670円で山盛り登場です。二人でシェアして食べても結構多いと感じるほど、蟹身(もちろん本物)がたっぷり使われています。ほぐした蟹身と同じ程度に細かく切ったきゅうり、玉ねぎ、キャベツの食感も楽しいです。
刺身もいいけれど、函館名物、一夜干しの根ぼっけもね。肥っていて脂がのっている根ぼっけ。真ほっけのシンプルな味に旨味が増して、美味なのです。
ぷりっぷりの身から滴る脂。これでビールや日本酒が進まないわけがありません。
久しぶりの北海道ということで、奮発して毛ガニ(2,980円)、いってみました!
みっちりとクシュクシュな身が詰まっています。
まだ茹でたてでホクホク。提供直前に目の前でご主人が割って提供してくれました。トゲトゲの障害もなんのその、この美味しさには多少無理してでも隅々まで食べきりたいと思わせる美味しさです。
東京で購入してももっと値段が高いことも多い毛ガニ。函館まで飲みに来た甲斐があるというものです。
あわせるお酒は旭川の「純米ささやきの風」(900円)。道産の酒米「吟風」をつかった北海道らしい一品です。一仕事を終えたご主人が一瞬の休憩中です。「どう?美味しかった?」
すぐに二巡目のお客さんからの注文がどっと集まり、またご主人は包丁を目にも留まらぬ速さで動かし始めるのでした。
食べ終えた毛ガニを戻すと、なぜかご主人はニコニコしながら、燗酒をつけるよう指示しました。だれかひれ酒でも頼んだのかなと思っていると、さっきの甲羅から味噌と身の残りを取り出し、燗酒とあわせ、ささっとこちらの前に。絶品の甲羅酒はほっぺが落ちそうなほどでした。
地元の方御用達の賑やかな店内で、アットホームな雰囲気の皆さんと美味しいお酒と魚たち。函館で老舗の飲み屋をお探しならば、こちらはいかがでしょう。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)