中央線文化と、中野ブロードウェイを中心としたサブカルが融合し、不思議な流れが生まれる中野。さらに再開発で大学やキリンビールがやってきて、ますます混沌としてきました。もちろんいい意味で。
電車でわずかな新宿、高田馬場、杉並とも違う、独特な空気が街を包みます。
もともと中野は飲み屋街が一際広く、そして伝統的な割烹から鰻串居酒屋に立ち飲みとバラエティも相当豊かでしたが、ここにはて、この混沌が次々尖ったものを生み出し、それが一層中野を中野らしく輝かせています。
今回ご紹介する飲み屋は「サワースタンドエイト」。店名の通り、サワーを専門にしたキレッキレに尖ったお店です。
場所は意外にも駅から近く、北口の改札口からわずか1分の距離。小雨ならば傘も不要な場所です。そんな立地ですが、入り口は知らなければ通り過ぎてしまうような、建物裏の細い隙間にあります。貴重なオーセンティックバーや立ち飲みバー「泡」が並ぶ一画です。
知る人ぞ知る隠れ家。飲み好きしか立ち寄らないこの道にあることから、飲みにいくのは特別な気分。勇気を出して店に入ってしまえば、そこには漢方のごとく並ぶ漬け込み瓶と、落ち着いた雰囲気のカウンター、そして笑顔がやわらかいバーテンダーさんが迎えてくれます。
店名の通り、サワー専門店。ビールもウイスキーもありません。ただし、サワーの種類はとてつもなく豊富で、居酒屋のそれとは格が違います。それなのに値段が380円からと、飲み代は居酒屋値段。しかもお通しはなく、一寸一杯が楽しめます。
定番はデコポンスパイスサワー(380円)。花山椒を効かせたチリっとしたクセが心地よい一杯。お店で果実をむいて漬け込んでいるものばかりで、まるで薬局のようです。
では乾杯!
洋梨ハーブフレーバーシードルや、カルダモングレープフルーツサワーなど、ただ果実を漬け込んだだけでなく、スパイスで個性をつけていて、そのどれもが思わず頷くほど融合しています。
取材時はまだ少し寒く、生姜のホットシードルなんていうものも。季節や売れ行きによって内容がかわるので、何があるかを楽しみに行くのも楽しいです。なかなか漬け込み系でこれだけバリエーションを生み出すのも大変なのに、さすがは専門店だけあります。
専用の漬け込みサーバーは見た目にも美しく、中野の怪しい建物裏とのギャップがかなりのもの。
バーの定番、レーズンバター(380円)や牛肉の生ハムといったバーメニューはちょっとつまむのにちょうどよく、サワーとの相性を考えて作られているのでマリアージュもより楽しいです。
大きな殻付き牡蠣など、スペシャルな料理にも出会えるかも。
女性が一人でふらっと仕事帰りに立ち寄れるようなお店がコンセプト。値段もそうですが、明るく清潔感があり、楽しさもまさにそれ。
もちろん、漬け込み系が好きな人ならば、誰にでもおすすめできる良きお店です。
当初はベースに甲類焼酎を使用していたそうですが、現在は味のバランスなどを考えてウォッカになったそうです。中野という土地柄、キリン系のものと笑って教えてくれました。
炭酸の強さや魅せ方だけではない、進化系サワーに出会えるお店「サワースタンドエイト」は、飲食系やメーカーのプロの方でもきっと参考になります。ここは中野の実験室ですから。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
サワースタンドエイト
東京都中野区中野5-63-4
18:00~翌3:00(不定休)
予算1,700円