ビールを飲む人が減ったと言われながらも、日本人の一口目の主役はいまもビールに変わりありません。多様性を楽しむクラフトビールや昨今の大衆酒場ブームの影響もあって、むしろ注目されている飲みものだと筆者は考えています。
広島に最高の生ビールを飲ませてくれる立ち飲みがあることをご存知でしょうか。ビール銘柄は流行りのクラフトではなく王道のナショナルビール。日常的に飲むビールを、こだわりの設備とドラフトのテクニックで最高の一杯を味わうことができるお店「ビールスタンド重富」です。
場所は中国地方最大の歓楽街・流川地区。営業時間はなんと17:00から19:00のわずか二時間。その時間を目指して日々全国からビールファンが集まってくるのですから、行列することも多いです。
ビール会社傘下でもビアホールでもなく、ここは重富酒店という酒販店。その脇で飲めるので角打ちと言えるでしょう。
10人も入ればいっぱいになる店内。中央には昭和初期のビールサーバーを再現したビールスタンドが鎮座。注ぎ手の重富さんやお弟子さんが立ち職人技を披露します。
ビール博物館や一部のビヤホールに保存されている特殊な抽出器具「スウィングカラン」と同形状のものが昭和のサーバー。現代型のサーバーと2つのタップが用意されています。
木造の冷蔵庫をサーバーの冷却部として使用していて、隣の樽から繋がったホースがこの中を抜けていくことでビールをじっくりと冷やしていきます。
中を拝見させていただきました。まだ電気冷蔵庫がなかった時代をそのままに、回路を冷やすのは巨大な氷。
ビールの注ぎ方は4種類。昭和のビールサーバーが注ぐ「壱度注ぎ」、昭和のビールサーバーのビールに平成のサーバーの泡を載せる「弐度注ぎ」、5分ほど時間をかけて泡だてながらつくる「参度注ぎ」、10年かけて考案したという「重富注ぎ」。
さらに裏メニューもありますが、それは来てからのお楽しみ。ビールは2杯までと決められているので全部を一度で飲み比べることはできません。おつまみもなし、ゼロ軒目として広島の一杯目の”喉潤し”の場所です。
メニューはビールのみ!
まずは元気な味を楽しむ壱度注ぎから。乾杯!
パチパチと小さく音を立て、ふかふかとした泡が特長。味はほどよいガス圧で、心地よい刺激がありつつも、ごくごくと喉に当てたくなる喉越しよき一杯です。
二杯目は重富注ぎ。きめ細やかな泡が蓋をして、ビールは泡の手前でモヤを描いています。
ホイップクリームのようなつるっとした表面。一度注ぎの泡との違いは歴然です。
この泡を上唇で抑えながらビールをすっと飲むと、炭酸と苦味が感じられるナショナルビールらしさを磨き上げたような印象をうけます。
よい生ビールは飲むこちらも試されている気分。きれいなレーシングができました。
重富さんは日本中でビールの美味しさを発信するために出張も多く、その際は別の方がたちますが、美味しさはそのまま。ビールは通常はアサヒスーパードライですが、毎年2月頃はキリンラガーやサッポロ黒ラベルを繋ぐ日もあります。
ナショナルビールは注ぎ方でこんなに変化する。それを実体験できる広島でイチオシの一軒です。楽しく千円で飲んで、いざ夜の街へ。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
ビールスタンド重富 (重富酒店)
050-3635-4147
広島県広島市中区銀山町10-12
17:00~19:00(不定休)
予算1,000円