呉「本家鳥好」 造船の街でみそだきにラガー、スープ豆腐と牡蠣酒

呉「本家鳥好」 造船の街でみそだきにラガー、スープ豆腐と牡蠣酒

本日は呉から「本家鳥好」をご紹介。

戦艦大和をはじめ多くの軍艦を建造した呉海軍工廠(こうしょう)で有名な呉。戦後は播磨造船所(現ジャパン マリンユナイテッド)呉工場として、大型の民間船をこの地で製造や修理を続けています。

四国松山を結ぶフェリーが発着する呉港や海上自衛隊の基地もあり、まさに海の男の街。ということは、野毛や横須賀、長崎と同じように飲み屋街も立派なものがあります。

JR呉駅周辺の夜は閑散としていますが、これは駅から中心からややずれているから。東へ10分ほど、堺川と本通りの間に飲みの楽園が広がっています。新旧様々な飲み屋が建ち並び、とくに焼鳥屋が目につきます。そんな呉の焼鳥の原点となったお店が、堺川沿いの道に面した「本家鳥好」。

 

1951年(昭和26年)創業。人通りがまばらな道にまで聞こえてくるお客さんたちの笑い声。飲み屋から漏れてる楽しそうなガヤは、暖簾をくぐるときに高揚感を掻き立ててくれます。

 

入ると左手に厨房。一瞬どきっとする強面大将と奥様が迎えてくれます。右には活魚の水槽。その後飲みながら生け簀の話をしたところ、笑いながら常連さんが「ここは焼鳥屋でも、魚が美味しいから、鳥を食べないときもあるよ」と。呉は焼鳥屋に生け簀は標準で、その走りもここ「本家鳥好」なのだと聞きます。

 

厨房に向いたカウンターが数席。目の前が焼台でご夫婦の掛け合いも楽しめる劇場特等席。右側は昔ながらの座敷があり、いい感じでくつろぐ常連さんたちの姿。

 

生ビールはキリン一番搾り。瓶ビールでキリンクラシックラガー。日本酒は地酒水龍。

 

ビールは昔アサヒ、だいぶ昔にキリンに切り替わって以来、ずっとクラシックラガーだそう。「キリンビールの社長も飲みに来たんだよ!」なんて話で盛り上がりながら、では乾杯!

このクラシックラガーは岡山生まれ。昭和40年代の味でつくっている銘柄です。

 

名物はみそだき。いまでは呉の名物料理となった「みそだき」はここで誕生したそうです。初代が戦後の混乱期、老鳥しか手に入らず硬い皮を美味しく提供するために発案したものと聞きます。

 

常連さんのファーストセット。ラガー瓶とみそだき。

 

口にいれるとホロホロと溶けるように広がり、鳥皮の脂とタレの甘みとコクが混ざりあう。その余韻はガツンと苦味のあるラガービールにぴったりです。とても力強い味で、これなら労働後の疲労を吹き飛ばしそうです。

鳥では骨付焼も名物で、タレ焼きは親鳥のももを一旦蒸し、軽くタレに浸したもの。1人だとお腹がいっぱいになってしまうので常連さんのそれを覗かせていただいて、私は次の料理を。

 

スープ豆腐は鳥だしのスープにごろんと豆腐を入れ、アルミ鍋でグツグツと煮込んだもの。400円でこのサイズ。ほっこりする鳥だしの優しいコクと、スープといっしょに掬って食べる豆腐は「癒やし」です。鳥料理店ならではの冬の逸品です。※年中食べられます。

 

焼鳥台は両面で焼くサラマンダータイプ。外の”ガワ”がない珍しいかたち。ガスの強火で表面をカリカリにするから美味しいんだよと大将。

最初は強面だなーと思っていたら自然と会話がうまれ、同じくカウンターで飲んでいるお客さんも交えて冗談が飛び交う楽しい雰囲気へ。(大将)「それじゃあ、うちのとっておきを記事にしてもらわなくっちゃ!」

 

音戸の牡蠣打ち場まで出向いて直接仕入れるという牡蠣。広島といえば牡蠣なわけですが、ここは焼鳥屋。それなのに、この牡蠣が食べたくて東京からわざわざ食べに来る人も多いのだそう。

転勤や出張で呉に来た人がこちらの焼き牡蠣に感動し、戻ってからも出張ついでやここを目指して全国から飲みに集まるんだと、嬉しそうに話す大将。

おおぶりでモチモチ、表面は水気が飛んでパリパリですが、中はまだ水分がありジューシー。そのまま食べるもよし。

 

おすすめは、熱々の牡蠣に地酒水龍の熱燗を流し込む「牡蠣酒」です。

 

牡蠣って独特な磯っぽいクセがありますよね。これが、まったくなし。濃厚な旨味の塊となった牡蠣のエキスが香ばしさをまといながらゆっくりとお酒に染み出してきます。ふんわりと優しい磯の香りと酒の甘い米の香。”酒飲み”でよかったーと思わず口から声がこぼれます。

 

活造りでだしてくれるお刺身をはじめとした魚も美味しい、名物のみそだきや骨付きなど鶏も美味しい、そして牡蠣も美味しい呉の名酒場。広島駅から呉駅までは呉線の快速で30分。目指して飲みに行く価値十二分にありますよ。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

本家鳥好
0823-24-7667
広島県呉市中通3-2-4
17:00~22:00(日定休・不定休日あり)
予算2,600円