広島『権兵衛』創業まもなく100年。カスビ貝や虎魚のおでんに本洲一を

広島『権兵衛』創業まもなく100年。カスビ貝や虎魚のおでんに本洲一を

2022年10月3日

広島最古のおでん屋『権兵衛』は、非常に素晴らしい酒場です。「瀬戸内おでん」ともいえる独特なスタイルで、牡蠣や穴子をはじめとした魚介類のおでん種が充実しています。老舗らしい堂々とした風格ながら大衆価格が嬉しい。日本酒は広島・海田市(かいたいち)の酒蔵、梅田酒造場「本洲一」一筋。

スポンサーリンク

戦災で移転。当初は名前がなかった。

都市圏人口200万人を超える中四国地方最大の都市、広島。

多くの地方都市がそうであるように、広島の繁華街はJR広島駅周辺と、県庁・広島城址の周辺エリアである八丁堀・紙屋町・流川の、大きく分けてふたつの繁華街が存在します。

古くからの歓楽街である流川周辺には居酒屋やバー、スナックなどが密集しており、さすが拠点都市のネオン街だと感じさせる賑わいです。居酒屋やレストラン、食堂だけでもなんと1,000軒近くあります。

これら古くからの中心街は戦災により壊滅状態となったこともあり、老舗と言われる店もその多くが戦後に開業しています。そうした広島で、創業100年を迎えようとしている老舗のおでん屋があることはご存知でしょうか。

外観

店の名は『権兵衛』。1924年(大正13年)に、割烹料理屋として開店しました。現在の広島平和記念公園に近い旧太田川西岸にある土橋町に店を構えたそうです。ですが、戦災により店は完全に消失。終戦から8年後の1953年(昭和28年)に薬研堀に移転し、現在に至ります。

店名にも歴史があります。もともと清酒「本洲一」の蔵元・梅田酒造場の系列店として創業しており、お店そのものには店名がなかったそうです。お客さんたちは「名無しの権兵衛」と呼んでおり、それがやがて正式に店名となったといいます。

そうした背景を知らずとも、直感で「ここはいい店だ」と感じる堂々とした佇まい。わずかにおでん出汁の香りが漂っています。さぁ、暖簾をくぐりましょう。

内観

店はおでん鍋を中央に配置した立派なL字カウンターを中心に構成されています。二階は宴会もできる座敷となっており、大人数の利用にも対応しているようです。店内には店の歴史を物語る調度品やノベルティグッズが所狭しと並んでいます。

ふたつのおでん

さて、主役のおでん鍋がなんとふたつあります。ひとつは透き通った汁におでん種が浮かぶ一般的な出汁おでん。

もうひとつは、味噌おでん。大阪のどて煮ににています。白味噌(府中味噌)を使った甘辛い味付けです。

おでんの種類は70品以上。鍋や手元の品書き、そして壁に掲げられたレトロな木札から気になるものを選びます。

店を切り盛りする4代目の大将はとても気さくな方で、お手伝いの皆さんもとてもやわらかな接客をされています。他県ではみかけないおでん種も多いので色々質問させていただきました。

品書き

お酒

ビールは樽生のサッポロ生ビール黒ラベル:550円を筆頭に、夏季限定で北海道生まれのホップを使用したSORACHI1984、瓶ビールでアサヒスーパードライキリンクラシックラガーサッポロヱビスサッポロラガーなど550円~。

日本酒は本洲一を複数揃えており、1杯330円~とリーズナブル。※お楽しみ日本酒あり。

お楽しみ日本酒や焼酎は別メニューでいろいろ。

料理

おでん以外の料理はわずか。珍しい穴子刺身小鰯刺身茶飯焼きおにぎり茶漬けなど。

それ以外はすべておでん。品数が多いですね。加工品のおでん種の多くは手作りだそうで、しゅうまいも自家製。瀬戸内らしい食材は、牡蠣、飯蛸、蛸足、烏賊、鮑、にし貝、カスビ貝、イワシダンゴ、海老団子などでしょうか。

わかりやすい写真つきのメニューもあります。

今日のおすすめ

真心(ハツ)、やおぎも、魚の子、オコゼ、カニシューマイ、くずきりなど。やおもぎは広島のご当地料理で牛の肺をつかった料理のこと。

おでんの出汁が違う!実直さが伝わる料理たち

サッポロ ザ・パーフェクト黒ラベル(550円)

ビールの銘柄は、お店の記録が残っている頃からサッポロビールをメインにしてきたそうです。店が造り酒屋の系列として創業した経緯があり、その酒屋がサッポロの特約店だったことが関係しているそう。いまもサッポロビールとの関係は続いており、ワンランク上の注ぎ方を提供するパーフェクト生ビールの認定店です。

そんな話を聞けば、一杯目は悩むことなく生ビールですね!それでは乾杯。

カスビ貝

カスピ海なら知っていますが、カスビ貝とは一体・・・。巨大なつぶ貝のような身がでてきました。モチモチとしていますが、容易に噛み切ることができ、優しい磯の甘みが広がります。

こんな貝なんですよ!と貝殻をみせてくれました。正式名称はテングニシ。瀬戸内海にも生息しているそうです。こんな大きな巻き貝をおでんで食べるのははじめてです。美味しいので、入荷があればぜひ!

本洲一金紋(330円)

あわせるお酒は本洲一。権兵衛の母体だった造り酒屋のお酒です。いまも関係が続いており直接仕入れているそうです。キレとコクがある広島らしいお酒です。

冬瓜

出汁を味わうならば野菜が良さそう。ということで黒板メニューから冬瓜を選びました。別皿で提供してくれた冬瓜、出汁をしっかり吸っていて実に美味しそうです。出汁は割烹時代に突き出しとしておでんを出していた頃からのレシピを継続しており、特長としては出汁取りにカツオではなく、瀬戸内海でとれるアジやサバなどを使用している点が大きいです。

これに、「味を変えてお楽しみください」と、味噌おでんのとろみのあるタレと辛子を用意してくれました。繊細な瀬戸内出汁と、濃厚な味噌タレ、どちらもいい味です。

真心

味噌おでんのほうから、真心を。牛ハツを使用しており、盛り付けはどこか洋風ですね。ハツのクセを和らげる七味とネギ、そして香ばしさを加える黒ゴマのバランスがとてもよいです。

本洲一は5種類

本洲一のカテゴリー違いを4銘柄揃えている同店ですが、ラベルを貼っていない5番目の一升瓶がでてきました。実はこれ、本洲一で使っている湧水の仕込み水です。和らぎ水にどうぞ、とだしてくれました。

本洲一純米酒

お酒の美味しさはもとより、酒造りに使用する桶をイメージした酒器が素敵です。お店の皆さんの人懐こさに、暖かいおでん、そして美味しいお酒が揃えば、だれだって上機嫌ですよね。

オコゼ

おこぜのおでんをお願いしました。さばいたおこぜをまずは炙り、それからおでん出汁につけて味を染み込ませて提供するという手間のかかる一品です。

ひれ酒のコクをさらに濃厚にしたような美味しさ。クサミは皆無で、とにかく旨味の塊のような最高のおつまみです。

自家製らっきょう漬け

一通り本洲一を飲み比べようと思い、付け合せにらっきょうをいただきました。常連さんが慣れた感じに注文をするのをみていて、こちらも一緒にお願いしました。カウンターの内側にある容器からさっと取り出していて、なんと自家製なのだといいます。

甘じょっぱく苦味が効いたらっきょうに誘われて、日本酒が心地よく空いていきました。

お好み焼きだけではない、広島の酒場をぜひお楽しみください。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名権兵衛
住所広島県広島市中区薬研堀1-23
営業時間17:00~23:00(日祝定休)
開業年1924年