広島「大福」 エキニシの景色。老いも若きもビールとお好み焼きに微笑む

広島「大福」 エキニシの景色。老いも若きもビールとお好み焼きに微笑む

広島市大須賀町。通称エキニシと呼ばれる小さな飲み屋が密集する一画があります。広島駅周辺の再開発の大波をくぐり抜け、今もなお戦後すぐの匂いを漂わせています。

主要都市の駅前といえば、駅の隣は郵便局というのが定番です。広島もその公式通りにつくられていて、JR広島駅の脇に郵政省時代の風格ある広島東郵便局が構えています。調べると1985年までは中央局扱いだったようで、広島中央郵便局が新たに設けられてから、この名称になったようです。

今回ご紹介するお店は「お好み焼き大福」なのですが、なぜ冒頭から郵便局を語っているかというと、駅前中央局と店の立地が特殊だからです。

 

広島東郵便局の裏に突然広がる木造3階建てがびっしり立ち並ぶ飲み屋街。

考えてみれば、東京中央郵便局の脇はガード下系飲み屋街がありますし、京都中央郵便局の裏には今も現役の角打ちや、古い飲み屋が密集している区画があります。横浜も似たような場所があります。昔はターミナル駅の裏にはどこにもあった影の部分。広島・大須賀町はその景色をとどめた貴重な場所と言えるでしょう。

 

特飲街と呼ばれていた頃の話は、その道の専門家やマニアの皆さんに任せるとして、酒場案内人として現在の小箱が密集する飲食店街「エキニシ」は大変魅力を感じます。老舗もあれば、廃業した店舗を使い若い人も今風のパブを開いたりしており、横丁ブームが広島に来る頃にはより賑わいそうです。

 

そんなエキニシで長年続く老舗暖簾「大福」。地元のノンベエに、お好み焼きはどこがいい?と聞けば、「大福」という答えは必ず帰ってくるほどの店。赤い暖簾越しに、ソースの焦げる匂いが横丁の路地を包みます。

 

静かに、淡々と皆さん飲んだり食べたり。「いらっしゃい」と言うわけでもなく、表情で「どうぞ」と表すご主人。生も瓶もアサヒスーパードライ(550円)。製造は海を挟んだ向かい側、アサヒビール四国工場のようです。

ビアタンならぬジョッキが登場。とぷとぷ注いで、では乾杯。鉄板が奏でるジュージュー音だけで一杯目は空になります。

 

お昼から飲んでいる明け番風のジャンパー姿のお父さんはお昼からビール。作業着の常連さんに、お土産待ちのお母さん、スーツ姿の営業職風の女性と、客層はまさに老若男女。

ギーと鳴る丸イス。10席だけのカウンター。鉄板からくる熱。どれも、飲みと食の気持ちを掻き立てます。

 

ギョウザや豚耳など酒の肴も揃っていて、夜は完全に酒場となります。昼酒族は私を含めて2名。劣勢です。

どうする?とご主人。常連さんに対してもあまり会話をしない方ですが、表情は柔らかく広角高め。ボリュームあるお好み焼きは500円からと実に庶民的。ビールに酎ハイ、ひと玉食べても千円ちょっと。

 

ビールをもう一本。そしてお好み焼きも出来上がり。

クレープ状に生地を敷き、別で炒めた中華そばを載せ、手づかみでざっとキャベツとモヤシを載せます。山盛りキャベツの状態で2つのコテを巧みに使い、くるりと反転。練りでもないのに、野菜と蕎麦はまるで生地から離れません。

せっかくなので、そば肉玉、生イカ、生エビのスペシャルを選びました。具材が多ければ、それだけおつまみになりますから(笑)

丸い鉄板でプレスするように中まで熱を通します。すべてに無駄のない職人技が、次々来る注文をそつなくこなしていきます。

 

クレープ状に別で作った卵の上にスライドして、さらに天地逆転して完成です。

「うちのは、胡椒、ガーリック、唐辛子、青海苔をかけるんだけど、全部かけていい?」と聞かれるので、もちろん「はい、全部で」と。常連のお姉さんは胡椒抜きで、など好みを伝えていました。

 

二本のコテ裁きを優雅にさせて、目の前に登場。香るソースと油のなんとも言えない香り。ここでチューハイを飲まずして、いつ飲むの。

 

コテを垂直におろしてキレイに切り分け、層を崩さず食べるのが広島の流儀。そば、キャベツのバランスがよく、豚バラの脂が余韻をくすぐります。常連さんは巧みにコテを操り、すいすい食べていますが、私はたどたどしい。見かねたご主人が、テクニックを教えてくれるも、まだうまくできない…

「通って覚えてね!でも美味しそうに食べるね」と言われた言葉を忘れないようにしておきます。

 

広島の昼食の定番であり、〆の炭水化物の王道のお好み焼き。

戦後復興の影を残す飲み屋街、角にある「大福」で楽しんでみてはいかがでしょう。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

大福
082-264-4793
広島県広島市南区大須賀町12-7
11:00~14:30・17:30~23:00(日祝定休)
予算1,500円