旭川『よしや』かさねた年輪は旨い!街の息吹が肴の名酒場

旭川『よしや』かさねた年輪は旨い!街の息吹が肴の名酒場

2017年8月12日

酒場の魅力を考えると、単なる飲食店というだけではないように思えます。酒場は街を写す鏡のようなもの。その街に暮らし働く人たちが、大いに笑い、ときには辛い日にも杯を重ねている、いってみれば”記憶の塊”のようなもの。

飲食店なのでもちろん料理の味や値段は大事だと思いますが、それをこえて街の息吹を溜め込む場所としての魅力を感じずにはいられません。

あまり言うと、九十九神(つくもがみ)になりそうですが、100年酒場のカウンターにはきっと神様が宿っている気がします。

旭川で1927年(昭和2年)創業の焼き鳥「よしや」も、そんな酒場の奥深き魅力を味わえる名酒場です。5・7小路と呼ばれる元は旭川中央卸売市場があった場所で、2度の大火を経験してなお旭川を代表する繁華街として賑わいをみせています。

メインストリートの緑橋通りを市役所方向へ7分ほどの場所で決してアクセスがよいわけではありませんが、北海道第二の都市の風格ある飲み屋街が続いていて、梯子酒も楽しい場所。むしろ、近代化と地下道の広域整備が進んだ札幌よりも北海道らしい繁華街の光景が残っています。

2001年の火事で多くの店がダメージを受けて一時は衰退の危機だった5・7小路ですが、ここで親の代から店をやっていた店主らが〈ふらりーと夏祭り〉の開催や、街の活気づくりに取り組まれ、”復活の横丁”として知名度は高いです。

その中でも、ひときわの老舗が今回紹介します90年目を迎えた「よしや」です。

焼き鳥が看板料理で、夏季の間は看板の文字の通り「柳川なべ」も加わります。

カウンターと小上がりの空間は、道内の酒場らしいどっしりとした佇まい。1946年に現在の店舗を開き、70年以上の年輪をもつ空間です。役所をはじめ、この街を支える様々な人達が乾杯してきたカウンターは、縁の丸みに歴史を感じます。

小上がりは、銀幕のスターが瓶ビールを傾けていてもおかしくない、まるでセットのような完璧なセピアの世界。

ビールは樽生がキリン一番搾り、瓶ビール(大びん700円)は恵庭醸造のサッポロ黒ラベルです。旭川市とサッポロビールは2011年より包括連携協定を結んでいて、市営の旭川市旭山動物園内のレストランもサッポロライオンが運営しています。旭川の老舗でも北海道の開拓のシンボル・北極星のビールはよく似合います。乾杯!

質実剛健、長年変わらない品書き。戦後の混乱期はおでんをだしていたと聞きますが、いまのメニューはかなり絞られています。

さて北海道でやきとりというと、室蘭に代表される豚串のイメージがある方もいらっしゃるかと思いますが、札幌以北は概ね鶏肉です。しかも、美唄焼鳥のようにとりもつが看板料理というのが多いです。旭川もその流れにはいります。

一皿4本500円。壺ごと買って帰りたくなる創業以来作り方を変えていないタレがとにかく美味。濃厚でコクがあり粘度も高い。これを軽くまとっただけで鳥は最高の肴に生まれ変わります。

人数がいれば新子と呼ばれる雛鳥の半身もおすすめ。取材時も3代目の阿部芳三さんが黙々と焼き上げているのが印象的でした。

一人飲みでは焼き鳥のあとは「チャップ」という常連さんが多い。炭火の上で豪快に網焼きし、タレを潜らせた豚の一枚焼です。香ばしさとタレの旨さを存分に味わう豚の歯ごたえで、ビールや日本酒はゆっくりと確実に空になります。

14時に暖簾が掲げられるスタートの早い酒場ですが、それを知っている常連さんたちが平日でも続々と集まってきます。私がライターだと知ると、「娘が東京で居酒屋をやっているんだよ、可愛い孫がいてね。」と70代のおじいさんが顔をくしゃっとさせて楽しそうにお話してくださいました。

アットホームという言葉では括れない、地域に根づいた無くてはならない存在になっていることが伝わり、それがなによりお酒を美味しくしてくれます。

酒場っていいね。ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名やきとり よしや
住所北海道旭川市5条通7丁目右6号
営業時間営業時間
15:30〜21:30
定休日
日曜日
創業1927年