日本三名城「熊本城」を中心に広がる熊本市街は、繁華街の面積こそさほど大きくはありませんが、熊本城と白川に挟まれた一帯は実に濃厚で魅力あふれる街並みが形成されています。
政令指定都市をのぞいた百貨店で最大のフロア面積を持つ地元デパート「鶴屋百貨店」や、メインストリートである幅17mもある巨大な商店街「下通りアーケード」など、規模が大きい。裏に広がる飲食店やスナック街も活気があり、熊本市街散策は相当奥深く魅力を感じます。
銀杏通り、栄通り、熊本銀座通りが十字に広がる下通りや安政町界隈が飲みの中心で、その名もずばり「酒場通り」なんて路地も存在します。
通町筋電停付近から熊本城を見上げる構図は、「ザ・熊本」な一枚になるのですが、先の震災で被災した熊本城は復活に立ち向かっている真っ最中。誇り高き名城が元の姿になることを願いつつ、地元経済に「飲食」で貢献したい。
この界隈でおすすめの酒場といえば、三年坂通沿いの居酒屋「ねぎぼうず」です。馬刺しをはじめとする熊本の郷土料理や「香露」「れいざん」などの地酒に熊本米焼酎を大衆価格で楽しめる銘店です。
ガイドブックにのるような有名郷土料理店と違い地元の人の利用がほとんどですが、最近は噂を聞きつけ遠方から飲みに来る人も多数。口開けでタイミングがよければ飛び込み入店も可能性はありますが、できれば予約しておくほうが安心です。
ビールは4社揃い踏み。生樽でキリン一番搾りとサッポロヱビス・ヱビスザ・ブラックの3ライン。瓶ではアサヒスーパードライ、キリンクラシックラガー(CL)にハートランドも加わります。
チューハイの価格は酒場値段の指標という方もいらっしゃる方思いますが、300円ならば頷く値段のはず。
定番酒に阿蘇のれいざんと熊本の香露があり、価格はなんと280円。いずれも阿蘇の伏流水を使っていて口当たりに優しさがあります。地酒枠で久保田をはじめ各地の蔵も用意。
九州といえば焼酎でしょ、といわんばかりに白岳、川辺、大石などの米焼酎から芋、麦まで50種類ほど。大都市の郷土料理屋のそれよりも一回りほど手軽な価格になっているので、あれこれいろいろ飲み比べたい。
乾杯は生ビールで。注ぎながら泡をつくる独自スタイルの注ぎ方で、泡はフワフワ。では乾杯!
土地の料理もありますが、基本的には街場の居酒屋なので、野菜炒めやゲソ天など馴染みの肴も多い。熊本で飲むからには馬刺しも頼んでおきましょう。
飲み放題つきで3800円のコースがあり、地元で宴会する人たちがうらやましいです。豚足の煮込みや骨付き蒸鶏もきっとおいしいに違いない。
定番メニューに加え、旬のおすすめが壁に多数貼られているのでこちらも注目。キビナゴ酢漬け300円かー、お腹に余裕があれば全部頼みたい。むしろ、熊本に住みたい。
ビールのあとは日本酒で。升の表面張力も美しい魅力の一杯。熊本の地酒は常日頃から愛飲していますが、本場で飲むと印象はより一層いい。
肴には、熊本おつまみの定番・からし蓮根(250円)を。蓮根の食感と辛子味噌のコク、揚げたことによる深味も加わり、お酒の飲み欲は高まるばかり。
ねぎぼうずの名物料理は厚揚げねぎまみれ(380円)。揚げたての豆腐に万能ねぎをたっぷりかけ、九州特有の甘い醤油をかけたシンプルな一品。揚げ具合が絶妙で、焼酎好きにはたまらない一品です。
九州の焼酎は徳利で供されることが多く、「ねぎぼうず」も銘柄によっては徳利でやってきます。極楽をロックでいただき、トクトクと注いで、うん美味しい。
球磨焼酎「川辺」は人吉の人気銘柄のひとつで、繊月酒造の看板商品。すっきりとした後味が特長ですが、一口目は肉厚な発酵の旨味が感じられ、肉料理にも負けない力を持っています。
馬ヒモ刺し(1,100円)。見た目とは異なりたいへん柔らかく、口の中で溶けていくような食感。華やかな馬の脂の香りが広がり、その余韻は焼酎を呼び寄せます。
さつま赤鶏焼きは、宮崎の焼き鳥同様に鉄板で炙るように焼いたもの。もちっとした食感で、ブロイラーのような柔らかさとは真逆の筋肉質で濃厚な旨味を感じる逸品です。
定番メニューには入っていませんが、〆は馬刺しの握りなどいかが。飲み屋の最後にちょうどいいサイズで、この〆でもまた焼酎が進むのです。
コンパクトなお店で、テーブル席と厨房に向いたカウンターはすべて満席。大忙しにも関わらず、ひとつひとつの動作が丁寧かつ無駄がなく、接客も笑顔でされているのが印象に残ります。
料理も美味しく、雰囲気もよし。復興が進む熊本で、居酒屋で素敵な夜をはじめませんか。二軒目は、隣にいいお店がありまして…
お隣も「ねぎぼうず」。こちらは熊本では珍しい立ち飲み居酒屋で、リーズナブルな郷土の味をより手軽に楽しむことが可能。一軒目にしっかりとした料理屋を楽しまれた方でも、二軒目は熊本弁が飛び交う人情酒場をおすすめしたい。千円ちょっとでだいぶ楽しめますから、お隣もぜひ。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
ねぎぼうず
096-328-8539
熊本県熊本市中央区下通1-4-5
17:30〜23:30(不定休)
予算3,000円