歴史ロマンあふれる熊野への玄関口、和歌山。大阪から特急で1時間の距離にありながら、紀伊半島の独特な地形によってつくられた様々な食材や地酒が楽しめる街。
いつもの大阪飲みもよいですが、たまには和歌山の酒場を巡ってみてはいかがでしょう。関西国際空港からは和歌山駅のほうが実は近い。
南海電車の和歌山市駅前にある「酒の道場 花野」は、和歌山の飲み屋を巡る中で外すことが出来ない一軒。午前11時オープンで通し営業、明るいうちから暖簾がくぐれます。
隣接している花野酒店の直営で、店内でつながっています。小売スペースに並ぶお酒も持ち込み可能なので、ここは極めて居酒屋に近い角打ちと言えるでしょう。
それにしても、「酒の道場」というのはパワーワードです。道場破り!いやいや、和歌山の道場で紀州の酒を学ばせていただきましょう。
店構えの風格の通り、店内も情緒ある空間です。分厚い丸太から切り出したカウンターはニスで飴色に光ります。角打ちなのに小上がりまで完備。
料理は基本作り置きで、並んでいるものから「これとこれ」と店主に伝えます。家族経営のアットホームなお店で、料理も親戚の家で食べる大皿料理のような温かさを感じます。
地元の食材を近所で仕入れて、その日の分を調理して並べる。あたり前のことなのですが、そんな手間をかけた土地の味を楽しむのが一番ではないでしょうか。
港が近いことからハモやヨコワ、地ダコ刺身や焼き魚なども充実。とくに和歌山は黒潮のなかで育つ鯛が名物で、古い酒場や食堂には必ずといっていいほど置いてあります。
まずはもずく酢をちょいとつまみにして、生ビール(アサヒスーパードライ)で乾杯を。
グラス、ディスペンサーの洗浄がいいのは、サーバーの扱いを熟知した酒のプロが注ぐからというのは、言うまでもない。
東京では中野梅酒の名で知られる和歌山県海南市の醸造企業、中野BC。醤油蔵からスタートし、中野酒造株式会社という社名時代は地元の定番酒「長久」を主力としていました。東京の有名酒販店でも扱われる紀州梅酒の顔になった今も、地元では長久の蔵として愛飲されています。
浅干しで身はぷりっとジューシーなめざしを焼いてもらって、ここに土地の酒をきゅっと合わせる。注文を受けてから焼いてくれたイワシの海の香りが店内にふんわり。お酒好きならば、店の雰囲気もあいまって、きっと幸せになります。
全国各地のお酒が揃い、一杯ずつ角打ち価格でリーズナブルに楽しめますが、おすすめは和歌山の地酒飲み比べセット。90ccの猪口になみなみ3種類いただきます。
海運で栄えた歴史をいまに伝える「内川」と呼ばれる運河が流れる和歌山市中心部。酒の道場も運河沿いにあり旅情を感じます。そんな内川の対岸にあるのは酒造場・世界一統。平日の稼働日は酒造特有の米の香りが道場まで届くのだそう。地元では、社名と同じ名称の世界一統が飲まれていますが、東京などの都市部では「南方」のほうが知名度は高いかもしれません。
土地のお酒を大切に広めたいと話す店主の想いは強く、次から次へと様々なお酒を用意してくれました。これらはすべて一杯飲みができるもの。管理状態も良好。飲み比べが楽しくて仕方がありません。まさに、飲んで学べる酒道場。
大手三社のビールやハイボール、缶酎ハイなど、角打ちといったらコレという商品ももちろん用意されています。大びんを一本もらって、軽く200円前後の小鉢でちびちび飲めば1,000円札でお釣りが来ます。
古き良き酒販店の姿を残しつつ、それを飲める環境も居酒屋と同様の内容で整えられている。こういう角打ち、ありそうで実は少ないです。
角打ち(居酒屋)スペースも今になってつくったものではなく、先代の頃から続く歴史ある店と聞きます。まさに「道場」の名にふさわしいどっしりとした構えが魅力です。
地元のお酒好きのお父さんたちや、笑顔が素敵な酒販に対する想いの強い店主といっしょに、お酒の道場を体験してみてはいかがでしょう。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
酒の道場 花野
073-422-4838
和歌山県和歌山市元博労町39
11:00~21:00(土日祝定休)
予算1,800円