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へべれけサラリーマンの聖地・新橋。平日は明るい時間こそ人が少ない新橋の路地裏や高架下も、17時を過ぎればどっとスーツ姿・ワイシャツ姿のサラリーマンが押し寄せて毎晩がお祭りのように賑わいます。
夕方ともなれば、街中のやきとり店が串を焼き始め、山手線のドアが開いた瞬間から酒場の匂いが香ってくるほど。日本で一番居酒屋が多いと言われる街なのに、それでも大衆的な店は18時を過ぎれば満員御礼です。
なかなか入れない酒場のひとつが「まこちゃん」。1968年に目黒で5坪の店から始まった焼とんの店。その後新橋に移り、この街で5つの店を構えています。すべて同じ業態で、本店が満員になるので次から次へと近隣に店を増やしていったらしい。
本店もよいのですが、新橋らしさを体感するならばガード下店がおすすめ。100年以上前に建設された赤レンガづくりのアーチ型鉄道高架の下で、弧をえがく天井に包まれて飲むのは、まさに歴史を味わうといった感覚です。
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50人近く入れるお店は、退社時間を迎えた頃には満ぱいになります。鉄道の下の僅かなスペースでぎっちりつまってもつ焼きと酎ハイを飲む光景は、海外の人からみたらどんな印象を受けるのでしょう。
落ち着かないかと思いますが、これが座ってみたら実にしっくり来る。3分間隔で頭上を通過する山手線の振動も、奥の席のサラリーマングループの乾杯の発声も、店員同士の掛け合いも、騒音だけど飲みが進む独特なムードを作り出します。
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ビールはキリン一番搾り大びん(570円)からはじまり、生ビールはサントリーのプレミアムモルツ、サラリーマンの聖地はホッピーも大人気です。酎ハイ類は340円からで、宝酒造の甲類が飛ぶように売れていきます。
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串は1本145円。芝浦直送でその日に潰したてのモツが並びます。歴史あるもつ焼き屋は、なによりモツ肉の仕入れルートが強い。さらにまこちゃんのような繁盛店だと、次々売れていくから鮮度も抜群にいい。
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昔は40代以上のサラリーマンがほとんどで、冬は背広の黒、夏はワイシャツの白に染まっていた店内も、いまや酒場ブームもあって20代の男女の姿も多く、料理もそれに合わせて今風なものが登場しています。
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まこちゃん炒めは、この店でアルバイトをした人ならばお馴染みすぎるピリ辛の元気メシ。
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まずは乾杯しましょう。ガード下は大びんが似合います。ゴトゴトと音を聞きながらくいっと飲めば、気分は新橋通。
一番搾りで乾杯!
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1本145円と聞けば、他の街場もつ焼きを愛用されている人は割り高に感じるかもしれませんが、まこちゃんの串はご覧の通り大きい。1本50g近くあるようなずっしりとしたモツは、肉の味がぎっしり詰まっています。
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おすすめはタレ。肉が大きくても負けないほどの濃い味で、甘さが際立っています。これに辛子をぐりっと塗りつけて頬張れば最高なのです。これぞ新橋、明日への活力になる味です。その余韻はビールや酎ハイを呼び寄せます。
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宝酒造の焼酎ハイボールが人気。下町生まれの焼酎ハイボールは、戦後の新橋の酒場街が形成される過程において、下町からやってきた店主たちがボールを持ち込んでいた過去があり、古いお店に色付き焼酎ハイボールはまれに飲まれています。まこちゃんのボールは、宝酒造が仕掛けたものですが、街の背景ともあいまって、いまや人気の酎ハイとなりました。
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お通しのないまこちゃんですが、肉肉しいので一瞬だけでも健康になった錯覚になりたいので、キャベツは毎回頼みます。ここについてくる味噌をもつ焼きに塗っても美味しい。キャベツでカシラを巻いて食べるのもおすすめ。
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味噌ベースのもつ煮込みは古くからの常連さんに愛されるメニュー。煮込みの豆腐だけをつまみにする「豆腐だけ」も定番。ハムカツや豚の角煮などサイドの肉料理も優秀なものが揃うなか、トルティーヤなんて料理もあります。見ての通り、ビールが進む美味しい一品です。
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新橋にまこちゃんがオープンしたころは、そこまでもつ焼き屋は多くなかったのだそう。それから半世紀近くがたち、いまや立派なやきとんタウンです。
「今日は久しぶりにまこちゃんを覗いてみるかな。」
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
まこちゃん ガード下酒場
03-3437-9213
東京都港区新橋3-25-15
16:30~23:00(日定休)
予算2,600円