海南「スタンド割烹扇や」ケンケン鰹に戸坂の鱧。この道50年の職人技

海南「スタンド割烹扇や」ケンケン鰹に戸坂の鱧。この道50年の職人技

2021年8月22日

紀伊水道の新鮮な魚介を前に、料亭出身の大将の技が光る!ここは海南の旧花街にある小さな料理屋「スタンド割烹 扇や」。街の歴史を感じる場所、地元の食通が集う店には、旅先の酒場の魅力がつまっています。

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料亭の花板から独立

和歌山県海南市。紀伊水道に面した港に起因する街のひとつで、市内には旧花街があります。いまも港の立派な料理屋の面影を残す和食店や、現役の料亭も存在します。

今日ご紹介するスタンド割烹 扇やも、そうした花街の歴史に由来する一軒です。もともと「扇や」は和歌浦湾へ注ぐ日方川(ひかたがわ)沿いに広がる花街にあった料亭でした。時代の変化で花街は衰退し料亭の扇やも閉店することとなり、そこで花板を務めていたご主人は「扇や」の名前を受け継ぎ独立。それが現在の「スタンド割烹」です。ちなみに、スタンドといっても立ち飲みではありません。

いかにもそういう街だったことを感じさせる細い路地に、木造のかつては商売をしていたと思われるレトロなしもた屋が立ち並ぶ一画にあります。

飲み屋街という雰囲気は今はなく、知らないとなかなか訪れない場所だと思います。居酒屋慣れをした方も暖簾をくぐるには勇気がいりそうです。

海南駅からは1キロメートルほど離れていますが、店の近くには紀伊半島の幹線・国道42号「熊野街道」が通っており、そこを行き交う路線バス(和歌山駅-海南駅を結ぶ)でのアクセスも便利です。

店内は常連さんで満員御礼

地方の飲食店ではよくあることですが、外は静まり返っているのに店内は満席という状況です。暖簾をくぐると、8席しかないカウンターに座るすべての常連さんが一斉にこちらを向きます。タイミングよく、直前にお一人お帰りになったようで運良く滑り込みました。

数分前には2名客が来たものの、空席がなくお断りされたそうで、こういう立地にあっても人気があることがうかがい知れます。

カウンターには魚介類が重なるように詰め込まれた冷蔵ケースが並んでいます。古くても隅々までキレイにされており、大将と女将さんの接客はぱりっとしていて心地いいです。これは楽しめそうです。

それでは、瓶ビール(キリンラガー)で乾杯。

お通しは卵豆腐です。

料理は大将と相談して決めます

価格が明記された品書きや、きょうの料理を書いた黒板はありません。品書きは冷蔵ケースに入った魚そのものということで、一通り見ていきましょう。

紀伊水道のケンケンカツオ近海生本マグロヨコワ戸坂のハモ南紀の吉宗サバ真鯛ブリ穴子和歌浦湾のスルメイカ近海の太刀魚アシアカエビバイ貝なまこなどなど。一部は近くの漁港で今朝揚がったものだそう。※魚は季節や仕入れ状況で変わります

お酒は樽生ビールがアサヒスーパードライ、瓶でアサヒとキリンあり。お酒は地元の造り酒屋の銘柄が一通り用意されています。

魚がイイ、腕がイイ!

さっそく刺身3点をお願いしました。両隣の常連さんも、ここのお造りは最高だと話してくれるので、食べる前から期待は最高値に達しそう。お酒を準備して、それではいただきます。

お造り3点盛り、ピカピカのケンケンカツオ

飲みながら軽くつまめる量をお願いしました。内容は大将におまかせ。カツオ、マグロ、真鯛は、どれも地元で水揚げされた自慢の魚です。

合わせるお酒は中野BCの長久

お酒は海南の酒蔵「中野BC」(旧:中野酒造)がつくる定番銘柄「長久」ブランドの長久吟なま。名前の通り、吟醸酒の生酒です。料理を引き立て、余韻でしっかりお酒の美味しさを主張するバランスの良い吟醸酒。

これほどまでにキメが細かく淡く桃色に輝くカツオは滅多に出会わないかもしれません。

真鯛やマグロはもちろん美味しいのですが、この「ケンケンカツオ」が驚くほどに絶品なのです。ねっとりとした旨味と爽やかな風味が格別です。

ケンケンとはカツオの魚種の名前ではなく、紀南でケンケン漁(引き縄釣り漁)と呼ばれる釣りで行う漁法から来ているのだと常連さん。一本ずつ釣り上げ活け締めし、氷温保存したまま市場を通り、その日のうちに店にやってくるというもの。

紀伊水道の鱧を焼き霜造りで

夏の和歌山の贅沢品といえば、やはり鱧!紀伊水道、とくに海南市の戸坂漁港であがる鱧は、京都の料亭でも重宝される高級品。それを地元の割烹で手頃な価格で食べさせてくれるというのだから、これは楽しみです。

長年鱧料理をだしてきた大将のおすすめは焼き霜造りです。骨切りを手際よく済ませ、皮目に塩を振り炙ります。その味は、繊細な鱧の旨味をぐーっと引き出す職人技を感じるもの。

半分は湯引きで用意してくれました。紀州の梅をつかった梅肉を添えてひとくち。鱧に梅肉は京都や大阪でも一般的ですが、もしかしたら和歌山がハモと梅の名産地だからできた食べ方かもしれませんね。そんな話を楽しみながら、歴史ある海南の夜の時間はゆっくりと過ぎていきました。

太刀魚の塩焼き、穴子の天ぷら、茶碗蒸し。まだまだ色々食べたいですが、それはまた今度。

魚好き、食べるのが好きそうな地元の常連さんが集う店「扇や」。お客さんが良く、それはもちろん大将の女将さんの人柄によるものも多いのでしょう。カウンター8席(2階は宴会用の座敷)で人気の一軒、訪問前には予約をおすすめします。大衆割烹好きならばきっと気に入ります。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名スタンド割烹扇や
住所和歌山県海南市船尾194
営業時間17:00~23:00(日定休)
開業年1979年