京都・丸太町『やっこ』名物キーシマとは？昭和5年創業の食堂に浸る

夷川通室町東入ル。昭和5年創業の食堂『やっこ』には、「キーシマ」なる名物料理があります。中休みなく営業しており、明るいうちから食堂飲みを楽しむ人の姿も。観光地の有名店とは違う「普段着の京都」を味わってみませんか。

京都の日常には、知らない料理がたくさんある

何度訪ねても「京都へ行く」というのは、他の都市への旅行とは違った感情を持ちます。寺社仏閣を探訪したり、貴船や嵐山の自然を散策することだけが特別ではなく、京都は街なかの路地を歩くだけでも、例えようのない高揚感に包まれるのです。その理由は、悠久の歴史と、そこで生まれた食文化が筆者には大きいです。

なにも京懐石のようなハレの料理だけが京都の「美味しいもの」ではありません。「おばんざい」や「湯豆腐」「鯖寿司」のような名物料理だけでもないです。

ごく普通の料理にだって、この街では京都らしさで満ちています。長く親しまれてきた日常の飲食店では、他の都市ではけっして味わえない料理を食べさせてくれます。

そんな「普段着の京都」の味を求めて、今日は地下鉄丸太町駅から夷川通を歩いています。

目的の店は、『やっこ』。老舗の食堂好きにはたまらない佇まいではないでしょうか。創業は1930年。京都ではまだ老舗といえないのかもしれません。それでも、東京生まれの筆者には、90余年続く食堂は立派な老舗です。

「生蕎麦」の暖簾が行き交う人を優しく手招きします。夏は熱した鍋のように暑く、冬は底冷えで骨の芯まで冷える京都ですが、こういう店の前を通るときだけは、ホッとするものです。

時折、料理本などで紹介されますが、「やっこ」は至って普通の家族で営む食堂です。お客さんもご近所さんばかりで、女将さんと会話しつつ昼食を食べていきます。

常連さんが多いと、遠方から来た一見には厳しいのではないか。そんな心配もありましたが、女将さんの接客はとてもフレンドリーで、優しく迎えてくれました。

瓶ビール（キリンラガー）大瓶：680円、瓶ビール（キリンラガー）中瓶：600円のみ。

ミニ丼（衣笠丼）：500円、ミニやきめし：520円、だしまき：500円、吸い物：200円、ハムエッグ：500円、にしんそば：800円、はいから：580円、あんかけ：580円など。

キーシマ：480円、キーはいから：580円、キーカレー：680円、キーきつね（裏メニュー）：580円など。

なにはともあれ、ビールからです。酒場好きにとって、食堂はお昼からやっている飲み屋さん。もちろん混雑時は席を空けますが、のんびりとした空気に包まれた午後は、ゆったりとビールを傾けます。

平日の『やっこ』は昼食から夕食の間に休みがなく、午後2時くらいからはんびりと食堂飲みが楽しめます。といっても、お酒は瓶ビールだけなのですが、銘柄がキリンラガーですから、それだけで十分。

それでは乾杯！

京都は中華が面白い。薄焼き玉子で巻いた春巻き、カラシそば、あんかけ料理…。他の街とはちょっと違った中華料理が職人の街の胃袋を支えてきました。『やっこ』のように、1軒だけでしかだしていない、オンリーワンの名物料理も存在します。

『やっこ』名物「キーシマ」。

「キー」は黄色い麺。つまり中華麺のこと。「シマ」は、そばのこと。昆布・かつお・うるめいわしで出汁をとった関西風のうどん出汁に中華麺を入れた、素ラーメンのような料理が「キーシマ」です。カレー味にしたければキーカレー、天かす・お揚げをトッピングしたければキーはいからと、組み合わせて注文できます。

同じように、和風だしに中華麺を入れる料理は、姫路の「えきそば」が比較的知られていますが、同じ料理と括ることはできません。

出汁は塩分控えめで上品な旨味がどこまでも続くような、実に京都らしい味です。お腹に優しく、前日の外食の疲れを癒やしてくれるような気分。そして、キリンラガーがよくあいます。

衣笠丼は京都名物のひとつ。滋賀など隣県でも食堂の品書きに並んでいますが、東日本ではまず見かけません。

出汁、みりん、酒、醤油などで、油揚げやネギをサッと煮てかしわの玉子で綴じたもの。ミニがあるので、キーシマと衣笠丼ミニを頼んで、ちょうどよい昼食になると思います。

心も体もほっとする、暖かい雰囲気の食堂『やっこ』。京都へ行ったら、こういう食事も大変楽しいものです。癒やされました。

ごちそうさま。

（取材・文・撮影／塩見なゆ）