京都の居酒屋というとどんなイメージをお持ちでしょう。なんとなく、おばんざいだったり、割烹だったりと、どこか”はんなり”した感じはありませんか。
もちろん、そういうお店も多いですが、観光客が行き交う大通りの影に地元の人が集う日常酒場だって存在しています。京都最大の繁華街、河原町にも昼からメートルを上げたノンベエの笑い声が響く銘店があるのをご存知でしょうか。
河原町の昼酒処といえば、ここ「たつみ」です。
創業は1968年(昭和43年)で、まもなく半世紀を迎えようとしています。店の歴史と同じぶんだけ通っている年配紳士も多く、近隣のお酒好きから愛され続けている銘店です。
その昔は、「万長酒場」という名で営業していた店で、いまも店内に「万長」の額が飾られています。万長酒場というのは、京都山科から始まった酒場で、いくつか暖簾分けされており、三条にも同名を冠した店があり、そこもまたよい飲み屋です。
たつみは、万長酒場の卒業組のひとつ。
お昼12時の開店とともに、どっと縄のれんをくぐって「まってました」とお客さんが流れ込み、東側のカウンターは馴染みの顔で埋まります。西側はテーブル席となっていて、こちらは20代・30代の若いグループを見かけることも多く、ベテランだけでなく、若い男女まで幅広く親しまれていることが伝わってきます。
なにせ、店の前は河原町オーパ(OPA)という10代・20代向けのファッションビルだし、その先は河原町交差点という立地。白く眩しい光の裏に佇む赤ちょうちんと蛍光灯に照らされた酒場の対比は美しく、それでいて客層はアパレル店員なども多く、色は違えど客層は案外同じようなものというのもおもしろいです。
店一面に掲げられた黄色地に黒文字の短冊が、飲みの欲求をかきたてます。300円前後が中心で、たいへん庶民的。それでありながら、ハモやヨコ(まぐろの若魚)、紅ズワイにふぐなど立派な顔ぶれです。北陸と瀬戸内、両方の海の食べ物が集う京都らしい内容は、東京生まれの筆者には何度通っても魅力的です。
店の運営は若い人へと代がわりしてゆき、カウンターを仕切るお兄さんも若く、一人で十人以上のお客を相手にしても涼しげな顔で京都弁でテキパキとオーダーを回していきます。そんな店員と常連の間で、「アレあるか」「アレな、まってな」という絶妙な掛け合いがあり、ガイドブックにはのらない洛中の息遣いを肌で感じられ、それを肴にお酒が美味しい。
ビールはキリンの生。瓶ではラガー(RL)、樽詰酎ハイは西日本向けの関東では珍しい「きりんレモンハイ」(きりんはひらがな)のほか、アサヒが発売するハイリキも人気です。
日本酒は伏見の大手蔵「黄桜」がクラス別に用意されており、やはりリーズナブルでたっぷりメートルを上げて”かっぱ キザクラ かっぱっぱ”(キザクラのCMソング)です。
たつみで二千円飲むのは大変。だからこそ、お昼にちょいと引っ掛けるのにちょうどいい酒場です。座っても値段変わりませんが、一人ならばカウンターの情緒も肴ですから、ぜひ。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
たつみ
075-256-4821
京都府京都市中京区裏寺町通四条上ル中之町572
12:00~22:00(木定休)
予算1,800円