京都には横丁をより凝縮したような、一つの建物にぎっしりと詰まっている「会館」という飲み屋地帯がいくつかあります。地元の人でもディープすぎて敷居の高さを感じる人もいるほど、それはそれは不思議な空間なのです。京都駅前のリド飲食店街はヨドバシカメラの裏という立地、四富会館はその名の通り市場富小路にあり、こちらも繁華街の中心にあるので知られています。
そして、今回ご紹介する折鶴会館は、前にあげた2つとは異なりかなり地域密着型。四条大宮よりも西にあり、京都観光の飲み歩きのコースにはあまり入らない場所にあるため、より地元密着度が高く、それが京都洛中に暮らすリアルな人々の生活を垣間見れる感じがあり、それがたまらなくいいのです。
そんな折鶴会館の一軒目に立ち寄ったお店がここ「才」。幅1mの狭い隙間を入って行くとビニールに覆われた開放的な空間がみえてきます。入り口が二箇所あり、左右どちらからも入れます。たまらないね、この雰囲気。
カウンターの奥行きは狭く、店主さんとの距離が近くて会話が弾みます。キャベツが盛られてソースもおいてある関西串かつ立ち飲みの基本形ですが、フードは焼鳥やお造りにサザエの壺焼などバリエーションが豊富です。東京の立ち飲みは何かに特化していることが多いですが、関西はなんでもあるという印象です。
さて、飲み物をと。ビールも酎ハイも380円均一。ハイボールや冷酒などが440円とわかりやすい価格設定。まずは、なにはともあれ生ビールからスタートで。キレイなディスペンサーから注がれるビールはサッポロ黒ラベル。泡がクリーミーだし、立ち飲みでこれが出てくるなんて幸せ。では乾杯。
まず注文するべき品として、まぐろの中落ち(350円)と卵サラダ(100円)。派手すぎない、この酒場でよく見る顔ぶれを肴にビールをごくごくと。小さな幸せを感じます。
お話上手な店主さんと常連さんとの会話は関西らしいリズムがあって効いていて楽しい。酒場巡りをしていると話すと、界隈の立ち呑みの話を教えてくれました。居酒屋好きならばぜひ店主さんと酒場トークを楽しんで欲しいです。
常連さんのおすすめ、トマトハイ(440円)を飲んでみたところ、これが驚くほど美味しい!え、いつものトマトハイと違う、だけど、こっちのほうがもっと美味しいのでは?と思えるほど。
樽詰めのサワーにトマトジュースを入れたもので、一般的な甲類のトマトジュース割りと違い、炭酸が入っていて甘酸っぱいさわやかな味わいになっています。すっきりとしているけれど、トマトの主張もちゃんとあり、絶妙な割合なのです。
京都の焼鳥屋は大衆型はすくなく、上品なお店に多いのですが、ここは東京のそれと同じ。1本110円から1本単位で注文できます。まとめて焼くのではなく、冷めないように1本ずつ時間差で焼いてくれる親切な対応はさすがです。
関西は豚もつ文化ではないので、鶏か牛の串。ハツはもちろん鶏ハツです。おおぶりでジューシー、もっちりとした触感で、タレは平均より甘めでみたらし団子のタレに近い。鶏の旨味と甘さがちょうどよく、そこにビールや酎ハイが実によく合います。
ねぎま、ではなく「とりねぎ」という名の串。串打ちが丁寧で、1本110円はかなり良心的に思えます。
そして、「才」に来たらこれを食べなくちゃもったいない!という串がこちら、「辛つくね」。もちろん、お店の自家製です。辛いつくねといえば、東京にもそういうものはいくつかあるので、ある程度想像がつくのですが、これは気をつけて食べなくてはいけません。葱か韮かなと思える緑は、なんと唐辛子!冬でもこれを食べれば一気にポカポカになる1本。ただ辛いだけでなく、これがクセになる美味しさなのです。
普通のつくねと思わせて、これを知らない同行者に食べさせて反応を見る…なんてことはしてはいけません(笑)
辛党ではないのですが、ハマります。
酎ハイはトマトのほかに、レモン、青りんご、ライム、紅茶など種類は豊富。常連さんの間で「黄色」と呼ばれているシークワーサーハイ(380円)も人気メニューです。
黄色という名前、東京は江戸川区あたりの大衆酒場で色付きの焼酎ハイボールのことを、エキスを入れていない甲類プラス炭酸の白ハイとわけるために「黄色ハイボール」と呼ぶお店がありますが、京都でもまさか「黄色」と呼ばれる酎ハイがあるなんて。
ちくわの天ぷら(200円)やアジフライ(220円)、ハムカツ(200円)などの揚げ物の種類が多く、串かつも1本90円からとリーズナブル。さばのきずしも置いているので、京都の酒場感はここにもしっかり存在。
観光都市京都のなかにある、地元密着の立ち飲みを体験したい方はぜひどうぞ。ディープさもまたよい肴です。
ごちそうさま。
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(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
才
075-316-0708
京都府京都市右京区西院高山寺町15
17:00~24:00(日定休)
予算1,600円
(Special Thanks サッポロビール株式会社)